初めて、あげる

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 いよいよバレンタインデー当日。ずっと会社のロッカーに隠していたチョコをいよいよ持ち帰るときが来た。ハルと住んでいる家に置いておくのは、見つかりそうで心配だったのだ。  すでに付き合って半年ほどが経ち、一緒に住んでまでいるというのに、いざチョコを渡すとなると、異常に緊張してきた。せっかくハルが作ってくれた夕食の味もよくわからなく、やたらと喉が渇いて茶ばかり飲んだ。 「どないしたん? 具合でも悪いんか?」 「い、いえ……」 「風邪気味なんかもしらんで。飯終わったらすぐ風呂入って寝えや」 「……」  ここまで来ても意気地のない自分が情けない。ハルに余計な心配をさせ、一緒にいても上の空、食事だってもっときちんと味わいたかった。だんだん自分に腹が立ってきた。 「あの!」  大きな声でそう言って勢い良く椅子から立ち上がったかと思うと、つかつかとクローゼットへ行ってしまった。 「話しかけといて部屋出て行くて……どないやねんな」  ハルは戸惑うばかりである。  戻ってきた智の手には、茶色地にブランドの金文字だけが入った、シンプルな紙袋。 「これ! ハルさんに!」  勢いだけで突っ走ろうという魂胆なのか、普段よりやたらと声が大きい。目の前にいる人に向けるボリュームではない。 「お、おう、ありがとう」  智の迫力に圧され気味のハルが、おそるおそる紙袋を受け取る。 「開けてもええ?」 「…………はい」 「何その間!」 「ど、どうぞ!」  袋の中にはキャンディーのように包まれた、大ぶりの丸いチョコがごろごろと。 「うわ! これめっちゃ好きなやつ! ありがとう!」  ハルの表情がぱあっと明るくなり、手放しで喜ぶ様を見て、智もようやく落ち着いてきた。 「いつもありがとうございます」 「ん? 何が」 「家のこと、全部やってもらって……」 「好きでやってるからええよ。そんな改まられたら照れるやん」 「それから……」 「うん?」 「す、好きで、す……」
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