37人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
いよいよバレンタインデー当日。ずっと会社のロッカーに隠していたチョコをいよいよ持ち帰るときが来た。ハルと住んでいる家に置いておくのは、見つかりそうで心配だったのだ。
すでに付き合って半年ほどが経ち、一緒に住んでまでいるというのに、いざチョコを渡すとなると、異常に緊張してきた。せっかくハルが作ってくれた夕食の味もよくわからなく、やたらと喉が渇いて茶ばかり飲んだ。
「どないしたん? 具合でも悪いんか?」
「い、いえ……」
「風邪気味なんかもしらんで。飯終わったらすぐ風呂入って寝えや」
「……」
ここまで来ても意気地のない自分が情けない。ハルに余計な心配をさせ、一緒にいても上の空、食事だってもっときちんと味わいたかった。だんだん自分に腹が立ってきた。
「あの!」
大きな声でそう言って勢い良く椅子から立ち上がったかと思うと、つかつかとクローゼットへ行ってしまった。
「話しかけといて部屋出て行くて……どないやねんな」
ハルは戸惑うばかりである。
戻ってきた智の手には、茶色地にブランドの金文字だけが入った、シンプルな紙袋。
「これ! ハルさんに!」
勢いだけで突っ走ろうという魂胆なのか、普段よりやたらと声が大きい。目の前にいる人に向けるボリュームではない。
「お、おう、ありがとう」
智の迫力に圧され気味のハルが、おそるおそる紙袋を受け取る。
「開けてもええ?」
「…………はい」
「何その間!」
「ど、どうぞ!」
袋の中にはキャンディーのように包まれた、大ぶりの丸いチョコがごろごろと。
「うわ! これめっちゃ好きなやつ! ありがとう!」
ハルの表情がぱあっと明るくなり、手放しで喜ぶ様を見て、智もようやく落ち着いてきた。
「いつもありがとうございます」
「ん? 何が」
「家のこと、全部やってもらって……」
「好きでやってるからええよ。そんな改まられたら照れるやん」
「それから……」
「うん?」
「す、好きで、す……」
最初のコメントを投稿しよう!