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絆、芽吹く
なんということもなく動画サイトを見て回っているうちに、どこからどうたどり着いたのか
『パートナーとのセックス時の悩み~正常位で股関節が痛むことはありませんか?』
そんな字面がふと目に飛び込んできた。自身に思うところがあったからだろうか。
セックスに柔軟性が関わってくるなどと思ってもいなかった智は、最近自身の体の固さをひしひしと実感しているところだった。
じっくり時間をかけてくれることは愛を感じて嬉しいし、向かい合って抱きしめ合っての体位が最も心満たされる。
だが一方で、終わった後、ひどいときは最中から、股関節が痛くてたまらない。事後の歩き方は未だにひどいガニ股になってしまう。せっかくの行為を痛みに邪魔をされるのは、智だって本意ではない。
「毎日こんなストレッチをやってたら、痛くなくなるかなあ」
動画にあわせてストレッチを始めてみた。無理なく、できる範囲で、と何度もインストラクターが優しく声をかけてくる。そうか、体が硬くても無理に痛いところまで伸ばさなくてもいいんだ、そう思うと余計な力が抜けてくる。
程よく体を動かしていると、ぽかぽかとしてきた。心身共にリラックスできて、とても心地が良い。一日の疲れもデトックスされてゆくようだ。
「えーちゃんそろそろ寝えへ……ん?」
ハルが仕事を一段落させて部屋を覗きに来た頃には、智はラグの上で妙な姿勢のまま寝こけていた。
「何しとったらこんな寝方なんねや……」
傍らに転がっているスマートフォンをふと見ると、何やら動画が再生されたまま。何の動画だろう、とハルは画面を見た。
「……」
智が一番安心するだろうという想いから、向かい合って抱きしめ合っての正常位ばかりになりがちだったマンネリな自分を恥ずかしく思ったり、よかれと思って時間をかけていたがそれも負担だったのではと反省したり、言ってくれたらいいのにと一瞬思ったが智はそんなこと言えるような子ではないとすぐに打ち消したりと、瞬時にハルの脳内は大忙しとなった。
きっとこの動画を見ていたこと、智はハルに知られたくないだろう。そう思ったハルはスマートフォンの画面を消し、ベッドで眠るようにと智を優しく起こした。
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