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お誕生日
「もうすぐ誕生日やな。何か欲しいもんある?」
夕飯の後片付けをしながら、あまりにも何気なくハルが訊くので、智もつい普通に答えかけたが、途中からは叫びに変わっていた。
「そうですねぇ……って、え? 何で知ってるんですか?!」
「そら一緒に暮らしてたらわかるわ、洗濯もしてんねんし」
たまに社員証がワイシャツの胸ポケットに入ったままになっているのを、ハルが洗濯前にチェックしているのだ。
「ぐぬ、そういうハルさんはいつなんですか?」
「八月一日」
「もう一緒に暮らしてたじゃないですか! なんで言ってくれなかったんですかー」
「自分からアピるもんでもないやろに。で? 何欲しい?」
「祝ってもらえるだけで充分です。クラスの友達からはゴールデンウィークでよく忘れられてたし」
「俺かて夏休みでスルーされとったわ」
二人は笑った。
「ほんとに、好きな人からおめでとうって言ってもらえるだけで、幸せですから。それに、いつもいろんなもの、もらってます」
「へ? 何やろ」
愛情やモチベーション、肯定感に、幸せ。目に見えないものを日々もらっている。だが照れくさくてそんなこと、口にはできない智だった。
「美味しいごはん!」
誤魔化すようにそう言うと、ハルに抱きついた。ハルは智を受け止めながら、大きな声で笑った。
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