テディベアと魔法の手

夏の憂いごと

「えーちゃん風呂入った？」
　あ、ちょうどハルさんが来た。い、行くぞ。
「えーちゃん?!　ちょ、待って」
　ぎゅってした！　自分からぎゅってした!!　ハルさんが僕の腕の中でなんか言ってるけど、顔が僕の胸に埋もれてるので声がくぐもって何を言っているのかわかりません。
「待ってって！　何サカってんねんな」
　ハルさんは力ずくで僕の腕の中から抜け出しました。腕の長さでは僕が勝ちますが、力ではこのプチマッチョに負けてしまいます。そう、僕はひょろもやしだから。いや、そんなこと今はどうでもいいです。
　――触れることすら、拒まれてしまった。
「サカってって……別にそんな気はないですけど」
「いやいやサカってるやろ。何？　ヤりたいん？」
　やりたいわけではないですが、やりたくないわけでもなくて。なんて説明したら良いのかわからなくて。ハルさんのその言い方が、なんだかとても悲しくなりました。
「……ハルさんは、ヤりたくないんですか」
「ちょっと、清純派のえーちゃんがヤるとかヤらんとか言わんといて」
「……」
　さっきまであんなに燃え上がっていたチャレンジ精神は、悲しい気持ちに簡単に負けてしまいました。
「なんか様子おかしいで？」
「お、おかしいのはハルさんでしょ……っ」
「へ？　俺？　なんかおかしい？」
「前はあんなにベタベタしてきたくせにっ」
「ベタベタ……！」
「暑苦しいぐらいくっついてきてたじゃないですか」
「暑苦しい……」
「このごろは、えっと、あっちの方、も、ごぶさただし」
「……んー？」
「もしかして……もう気が済んだってことですか？」
「えっ？　何が？」
　ダメだ、肝心な部分をぼかしてたら全然伝わらない。ハルさん、本当にわかってない顔してる。
「たくさん性交したから、僕の体はもう気が済んだってことですか!!」
「成功？」
「っんもう、サクセスじゃないですよ！」
「ああ、サクセスじゃなくてセックス」
「……そう、です……」
　さすが関西人、うまいこと言うなあ……じゃなかった、うああああ恥ずかしい！　直接的すぎる単語を口にしてしまったしその後のやりとりもなんだか間抜けだー！