夏の憂いごと

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 ベッドでもう一度、エッチなキスをされました。僕の口の中でハルさんの舌が暴れ回っているような感じ。時々熱い息や声が漏れて、ハルさんがすごくえっちに見えてしまいます。普段のひょうきんで面倒見のいい母親みたいなハルさんは今ここにはいなくて、今ここにいるのは、ひたすら優しく僕に触れてくれる、確かに僕を欲してくれている、僕のことをとっても大切にしてくれる、僕の恋人。  ズタボロになって背中を丸めて後ろ向きに生きていた時に、闇の中から日の当たる場所へ拾い上げてくれたような、そんな存在。ハルさんに出会っていなかったら、好きになってもらっていなかったら、僕は今でもずっとずっと叶いもしない恋を引きずったまま生きていたのかな。  物思いに耽っている間にハルさんの唇は僕の唇から離れ、いろんなところに旅立っていました。首筋や鎖骨を甘噛みされると、くすぐったいようなぞわっとした感覚に襲われてしまって、変な声が出そうになるから、誤魔化すように名前を呼びます。 「っ、ハルさん」  用もないのに何度も呼んでしまうのですが、そのたび顔を上げてにっこりしてくれるハルさんが好きで、嬉しくて、だからまた呼んじゃって。何度も中断させてごめんなさい。  僕の中にハルさんが入ってきて、ひとつになった頃には、ハルさんの額には汗が滲んでいて、次第に顎から伝い始めて、僕の首や胸元に滴り落ちてくるけど、不思議と全然イヤじゃないんです。僕を一生懸命気持ち良くしようと頑張ってくれてる証みたいに思えて、愛おしいなって思っちゃうぐらいです。そしてこの頃のハルさんは、もうそんなことには気づかない様子。髪がまだ乾ききっていないままで、黒髪がいつもよりもつやつやに見えて、笑顔がなくなって、時々声を漏らすハルさんが、すごくセクシーです。こんなハルさん、今後一切僕以外の人には見せないで欲しい。過去は仕方がないとして、この先は、もう。柄にもなくそんなことを考えてしまうぐらい、好きになってしまっただなんて。なんだか不思議な気分です。出会った頃はあんなに大嫌……もとい、苦手だと思っていたのに。それが今ではこんなにも―― 「……めっちゃ見てくるやん」 「え? あっ! 大好きです」 「へっ?」  あっ、心の声の続きまで声に出ちゃった! 恥ずかしい……でもまあいいか、ほんとのことだし……ハルさんすっごく嬉しそうだし。
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