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数え切れない『ありがとう』
「で、ハルさんは何が欲しいんですか?」
唐突な問いの理由は、ハルの誕生日が近いからである。そんなふうに唐突に問われても、ハルは動じない。
「えーちゃんの全てを……」
「真面目に答えてください」
ウィットに富んだ回答をぴしゃりと一蹴された。やれやれとハルは力なく笑う。
「そんなんええて。俺はえーちゃんが笑ってくれてたらそれで」
「そういうんじゃないでしょ、僕の時だって無理矢理言わせたくせに」
智の様子は、相手を想ってのプレゼントというより、ほとんど意地だけで尋ねているように見える。
智は焦っている。もらいっぱなしなんて状況は人として許せないし、かといって智なんかよりずっとこだわりのシャレオツ野郎であるハルに何を選んだら良いかわからない。
「んー……」
智が全く食い下がる気がないのを見て取って、ハルも渋々考え出したが、なかなか思いつかない。智もそうだったが、ハルもいい大人、欲しいものはだいたい既に自分で買っているのである。
なるべくハードルと価格が低めで選びやすいものを、と考えるが、あまりにも低すぎるものは智に失礼だろうな、なんて考えていると、ますます決まらない。
「……せや」
長い沈黙の間、ずっと智はハルを見て、というか睨んでいた。ようやくハルが声を発したので、智は身構えた。どんなものをリクエストされるのか。
「なんか、えーちゃんとお揃いのもんちょうだい。何でもええで」
「ひっ」
「何その声」
またそんなハードルの高いことを、と智は焦ってしまった。ものの名前で指定して欲しかった。
「無理? あかんかった?」
「い、いえ。わかりました」
それからというもの、智は検索魔と化す。隙あらばインターネットで『カップル お揃い』『恋人 ペア』などを検索しまくった。その上で、ハルが使いそうにないもの――ネクタイやスニーカーは除外。食器は自分たちで焼いたものがあるから却下。智が使わない香水やアクセサリーも候補から外して、服の好みはわからなすぎるので避けよう……となると、本当に何を選べば良いのかわからなくなってきた。
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