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レッスン1
18歳の時、とある劇団の俳優養成所に合格した。
『感情の解放』という授業で、佐奈子さん相手にラブシーンを演じることになった。
ホントは派手で美人のN実やS江とそういうことをしてみたかったけど、ちょっと地味でおとなしいタイプの佐奈子さんが相手ということになった。
こっちもそうだけど、向こうも多分俺なんかじゃなくて、トッポイK四郎さんや元モデルのR哉さんなんかと組みたかったんじゃないかなと思った。
「よろしくお願いします」
と言うと佐奈子さんはニッコリと、なんとも魅惑的な笑みで俺を見つめて来て、それだけでもうなんだかちょっとドキドキしてしまったりした。
そういう意味ではもう役作りが始まっている状況で、俺は佐奈子さんが地味であろうがおとなしい人であろうがもうどうでも良く、この人とキスができる・・・というちょっと風俗的な邪念にすっかり唆されてしまい、自分ではどうすることもできないくらい静かに興奮してしまっていた。
課題は、
「ふたりで自由に作ったシーンを積み重ねて、やがて・・・という風に展開していく・・・そこにキスをする必然性がどれほど見てる方に感じられるか、というところに気持ちを高めて行ってください」
というものだった。
演出家はあまり細かいことを言わなかった。ふたりが寄り添い、抱き合って、心を込めたキスをする・・・というのにどれほどリアリティを込められるかということだ。如何様にふたりで創っても構わないことになっていた。
発表は1ヶ月後の授業で、ということだった。
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