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レッスン3
夜には長電話し、朝はモーニングコールで起きるようになった。
不思議なもので、そのうち俺は佐奈子さんのことが、気になって気になって仕方なくなっていった。佐奈子さんもきっとそうだと俺は思い込んだ。
いい感じで役に入って行けそうだった。
「そうねぇ、今度あたしのうちに来て一緒にフランクにシーン演ってみる!?」
「!」
「H君んちでもいいけど」
「俺のアパート代々木上原で一番汚いとこだから、佐奈子さんちへ行くよ、日曜日ならぜんぜんOKだよ」
「そう・・・フフ」
そうして佐奈子さんの阿佐ヶ谷のハイツへ出かけて行った。
フリートークでいろんな話をした。でも佐奈子さんはあまり自分のことについては詳しく話してくれなかった。
「ねぇ、H君って童貞!?」
ストレートに訊ねられた。
「ハイ」
ストレートに答えた。
「18だもんねぇ」
「やりにくいですか!?」
「ぜんぜん、あたしも処女ってことにしようかしら・・・」
「俺が経験者だという演技するのと、佐奈子さんが処女を演じるのとではどちらがやりやすいですかね」
「女は処女にすぐなれるわよ」
「??男は」
「カッコつけるからすぐもうバレバレなこと言っちゃうのよ」
その日、フランクな話をしていても埒が明かないということで、『紙風船』の世界の住人になって、台詞を喋るもよし、その近辺のことから自由に何か話してもよし、ということにしようということになって、ふたりして浴衣に着替えて演じることになった。
「俺持って来てないよ」
「昔お芝居で使った男物があるからそれ来てみたら!?」
「はぁ」
着替えるとピッタリだった。いつもの自分の浴衣と違うので、なんだか他人になれたような気がした。
そうしてラブシーンの稽古をした。
長い間、っていうト書きがこの戯曲には一杯ある。その間を利用して、俺は動き、佐奈子さんの肩を抱き、とりとめのないアドリブを口にし・・・そうして、心のこもったキス・・・を遂にしてしまった。唇が重なった瞬間、
「完璧やん!」
と思った。
そうすると佐奈子さんの唇がスッと俺の舌に・・・。
それは唐突に、いや必然にやって来た。
そうするともう重なった唇は離せなくなってしまい、離すどころかさらに舌が・・・縺れ合い、絡み合い、気が付いた時には裸になって・・・佐奈子さんと俺は・・・。もう何度も何度も、また何度も・・・。
さらに演技に深みが増して行くのか、演技を超越したふたりの愛が育まれて行くのか・・・何がどうなってしまうのだろうか・・・期待と不安とときめきが、俺の身体を激しく交錯しながらも、もうどうにも止まらない・・・という感情に射し貫かれていた。
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