二日目

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 竹生島から再びフェリーに乗って陸地に戻る。長浜駅から電車に乗り、琵琶湖の東側から西側へと移動していく。日は傾き、夜になろうとしていた。  二日目の宿泊先は修学旅行や合宿にも使われる旅館なので、歌会は昨日のような居酒屋ではなく男性陣が泊まる大部屋で行われる。歌会でもそのあとの宴会でも、私はなるべく相沢さんから離れて座るようにしていた。篠塚さんから「気をつけたほうがいい」と言われたからではない。親しくなろうとして距離を詰めてくる人が苦手なだけだ。  昨日と違って移動する必要がないので、宴会はいつまでも続いた。大部屋の男性陣は朝まで飲みそうな勢いだったので、女子グループは申し合わせたように部屋ごとに一組、また一組と宴会場から消えていく。部屋に帰る人たちには代表の山尾さんが「明日は朝早いから、早く寝るか徹夜するかのどっちかにしてくださいね」と叫んだ。  今夜の旅館では四人が畳に布団を並べて眠る。今日泊まる部屋にいるのは先輩ばかりで、篠塚さんは別の部屋だ。 「ねえねえ、せっかく女子だけなんだし、恋バナでもしようよ」  三年生の先輩が切り出し、ほかの先輩たちも浮かれた高い声を出した。女子だけの恋バナ、私が一番苦手な場面だ。恋人も好きな人もいないのだから私が話すべきことは何もないのに、初恋はいつかとか好きな芸能人は誰かとか私が答えられないことを根掘り葉掘り聞かれる。私が何も答えなければノリが悪いと思われ、掘り返したところで何もないことがわかると恋愛がいかに素晴らしいものであるか教示される。この後の展開は分かり切っているので、逃れるためにはこの場を抜け出すしかなかった。
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