二日目

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「女性に優しくするって、難しいよね」  顎を押さえた体勢で相沢さんが話し始めるので、私は建物の陰から移動してほんの少しだけ相沢さんに近づいた。そうしないと声が聞こえそうになかった。私が移動したのに気づいた相沢さんが顔をこちらに向けた。旅館の窓から漏れる光が相沢さんの瞳に映っている。 「僕の家はね、祖母、母、姉と女性だらけなんだ。父親は僕が物心つく前に離婚した。暴力と暴言がひどかったんだって。母親も、まだ小さな子供だった姉も毎日のように怒鳴られたり殴られたりしていたらしい」  頬杖のせいで大きく開かない相沢さんの口から、とても個人的な話が語られていく。私は聞き逃さないようにもう少しだけ距離を縮めた。 「だから僕は幼い頃からとにかく『女の子には優しく』と言われて育ってきた。おもちゃや遊具は女の子に譲ってあげたし、重い荷物は持ってあげた。困っているなら手助けしたし、辛いときは慰めた。成長していくにつれて女たらしとか点数稼ぎとか言われることもあったけど、僕は女性に優しくするのをやめなかった。家訓に背くと思っていたから」  相沢さんが体勢を変えて腕で膝を抱え込んだ。すらりと背の高い相沢さんはずいぶん小さくなっていた。
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