二日目

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「中一のとき、一つ上の先輩から告白された。目に涙をいっぱいためながら付き合ってほしいって言われて。女性を泣かせるのは女性に優しくないことだと思ったから、僕は反射的にOKした。僕がその先輩を好きかどうかは、あまり考えていなかった。僕の任務は女性に優しくすることで、僕の意思はどうでもよかった」  私が苦手な恋愛の話。でも相沢さんの声にはいわゆる恋バナをしているときの甘さは微塵も含まれていなくて、つらい体験を聞かされているみたいだった。 「結局、うまくいかなかった。その先輩は自分だけに優しくしてほしいと僕に頼んだけど、僕は条件反射のように他の女性にも優しくしてしまう。僕にとってはその先輩も他の女性たちも同じで、一人だけを特別扱いできなかった。それからも何人かの女性から付き合ってと言われて付き合ったけど、結果は同じだった。僕が優しいから好きだと言って近づいてくるのに、僕が他の女性に優しくするのが嫌だといって離れていってしまう」  相沢さんの口からぽろぽろと言葉がこぼれ落ちてくる。その流れを堰き止めるように、私は口を挟んだ。 「相沢さんは、付き合った女性が好きではなかったんですか?」  相沢さんが口を半ば開けた状態で私のほうを見た。でもその目は私を見てはいなかった。過去の記憶を探っているようだった。 「断ったら悲しませるから、悲しませるのは優しくないから、それだけを考えていて、自分が相手を好きかどうかなんて」
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