二日目

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 不意に明るい光が視界に入り込んできた。相沢さんが持っていたスマートフォンを起動させたようで、バックライトが相沢さんの顔を照らし出している。 「一首浮かんだ」  その口元はほんの少し笑みを湛えていて、私は自分の胸の奥がゆるんでいくのを感じた。相沢さんはつい先ほどまで泣き出してしまうのではないかと思えるほどの頼りない声を出していたから。  私が持っているスマートフォンが明るくなった。見ると、すぐ目の前にいる相沢さんからメッセージが届いている。たった今詠んだらしい歌が表示されていた。 〈精神の正常稼働のバロメーター今宵の月は綺麗だらうか〉  私は弾かれるように空を見上げた。頭上には半分よりも少し膨らんだ月が輝いていた。月を綺麗と思えるかどうかが自分の精神状態のバロメーター。視線を下げて横を見ると相沢さんがこちらに笑顔を見せていた。どうやら相沢さんは月が綺麗だと思えているらしい。 「ねえ、須賀さんもなにか詠んでよ」  詠んでといわれても私はそんなにすぐには詠めない。でも相沢さんは私を見たまま黙っている。見つめられている居心地の悪さから逃れるために、視線を再び空へ移動させた。上空で風が流れると薄い雲が月を覆い、しばらくすればまた輝きを取り戻す。もし今日がお月見なら月を隠そうとする雲を邪魔だと思ったかもしれないが、月の光が雲を照らしているからこそかえってその美しさに気づく。 〈月灯り照らし出される雲のふち夜空彩るレースのような〉  私の歌を見た相沢さんが口元をほころばせる。歌を評するわけでもなく、しばらく何か考えた後で文字を入力し始める。
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