最終日

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 ホテルに戻って朝食をとり、チェックアウトすればあとは帰るだけだ。京都へ戻る電車の中では眠る人もいたけれど、京都駅で解散した後に何をするか盛り上がっている人のほうが多かった。山尾さんと稲葉さんは顔を寄せ合ってスマートフォンを覗いているし、向井さんは二年生の女子たちと京都のどこに行くか相談し合っている。女子同士で盛り上がる向井さんの声には昨晩聞いた刃のような冷たさはなく、あの光景は夢だったのではないかと思いそうになる。  相沢さんはスマートフォンを握りしめて眠っていた。きっと下車時刻のアラームをかけているのだろう。私は窓の外を眺めた。今朝目の前にあった近つ淡海はもう遠くなっている。  京都に戻る前に相沢さんに返事をしたかった。メッセージ画面を開き、考えながら一文字一文字打ち込んで三十一文字にしていく。全然私らしくない歌だ。書いているだけで耳が熱くなってくる。何度か押すのをためらって、とうとう送信ボタンを押す。相沢さんの手の中にあるスマートフォンに、私の歌が届いたのが見えた気がした。  誰ゆゑに乱れそめにし我が心 確かめたくて君に会いたい
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