吟行初日

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 本日最後のイベントである歌会はどうにか無事に終了した。飲み放題プランに合わせた九十分の歌会の間は満足に飲食できなかったので、別の居酒屋に移動する。ここから本格的な飲み会が始まるのかと思うと気が重かった。壁と同化していたいのに、後輩を放っておかない主義らしい女の先輩に声をかけられる。 「須賀さん、何飲む?」 「ウーロン茶でお願いします」 「一次会もずっとウーロン茶だったんじゃない? 飽きない? ここノンアルコールカクテルもあるよ」 「いえ、ウーロン茶で」 「須賀さんはウーロン茶が好きなんだね」  好きなわけではない。考えるのが面倒くさいだけだ。でもこうしてウーロン茶ばかり頼んでいて「ウーロン茶好き」と思われるならもっと面倒くさい。 「あ、じゃあオレンジジュースでお願いします」 「そんな、無理しなくていいのに」  笑いながらもオレンジジュースを注文してくれた。  大学生活はどうかとかバイトは何をしているのかとかあの先生の講義は楽だとか当たり障りのない会話ならどうにかこなせるが、趣味はなにかとか好きな歌人は誰かとかどんな芸能人が好きなのかとかそういった話になると私の口は途端に動かなくなる。そうなると私との会話は退屈だと判断した相手はグラスを持って別な席へ移動する。私はみんなが好まないであろう突き出しの枝豆や鶏皮の串を食べながら苦痛な時間が過ぎるのを待った。 「ここ、いい?」  頭上から涼風のような声が降ってきた。返事をする間もなく、私の隣に飲みかけのグラスが置かれた。同じオレンジ色の液体が入っているが、ストローが刺さっていないのでお酒だろう。視界の左端に爽やかなブルーのシャツが入り込む。相沢さんだった。
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