58人が本棚に入れています
本棚に追加
二日目
二日目は琵琶湖を東側からぐるりと回っていく。朝早くにホテルをチェックアウトして電車に乗り込み、向かう先は彦根城だった。昨日巡った寺院や神社にも興味がなかったが、城にはもっと興味がない。どうしたものかと思いながらカメラを起動していると、すぐそばから深いため息が聞こえてきた。見ると篠塚さんがいる。篠塚さんも私と同じように城見物の時間を持て余しているのだろうかと思っていたら、その目は琵琶湖の湖面よりも輝いていた。
「須賀さん見て! この左右対称に櫓がある天秤櫓は彦根城でしか見られないんだよ。こっちの橋は落とし橋っていって、敵が攻め入ってきたときには橋を壊して侵入を防げるんだよ!」
篠塚さんはどうやら城マニアらしい。昨晩ホテルで交わした会話の三倍以上は喋っている。クールそうに見える篠塚さんにも熱くなれる一面があったのだ。
篠塚さんは自分自身を城に攻め入る側と守る側に置き換えながら城の構造について説明してくれる。あちこち指差しながら話をする篠塚さんの顔に、ふと雲がかかるような影が差した。
「須賀さんがいい人で良かった。私、お城を見るとつい興奮しちゃうんだけど、今まで『そんな趣味は変』とか『妄想が気持ち悪い』とか言われたことがあるから」
その声を聞いて、私の中にも影が差した。何かを好きになるのは、それを好きじゃない人から蔑まれる危険性がある。私にはそれが恐ろしい。
最初のコメントを投稿しよう!