大丈夫、私は正気です。

　刑事さん。
　ええ、私があの女と夫を殺したんですよ。はっきりと認めます。
　でも、悪いのは私じゃあないですよ。
　あの女は泥棒なんですから。

　刑事さんは知ってますか？　MMORPG。そう、オンラインゲーム。
　あれってね、メインストーリーを進めるだけなら大した事は無いんです。それ以上の事をしようとすると、人の欲望や本性を剥き出しにするんですよ。

　刑事さん、チャットはします？　しますよね。
　ゲームにも大体実装されてるんですよ。そこに様々な年齢性別の人間が集まって、話していれば、当然揉め事も起こるでしょう。

　そう、起こしたのはあの女。
　メンヘラ発言して、自分は可哀想なのよアピールして、同情を集めて、狙った男にすり寄って、奪い取る。
　その相手が悪かったんですよ。
　そう、私の夫だったんです。

　夫も馬鹿ですよ。あの女の言う事を真に受けて、親身になって相談に乗ったりなんてして。
　その内、私と一緒にゲームを進めるより、あの女と遊ぶ事の方が多くなって。
　あの女は、SNSでこれ見よがしに、夫と遊んだ事を書き込んで、

『あはァ、楽しかったァ♥️　○○さん優しい～大好き！』

　なんて、スクリーンショットを載せたりして。

　刑事さん、わかるでしょう？　貴方の彼女に他の男がすり寄って、一緒に遊んだ写真をSNSに載せてたら、どんな気持ちになるか？

　しまいには、そう、今回のこれですよ。
　いつの間にかリアルの住所まで交換して、私の留守に、うちでよろしくやってたんですもの。
　まさか私がいつもより早い時間に帰ってくると思わなかったんでしょうね。夫は取り乱してたし、

『ピチピチの21歳だよ～♥️』

　なんて事あるごとに言っていたあの女の顔！　皺だらけなのを厚化粧で必死に誤魔化した、私より歳上の女の、醜い驚き顔！

　だから私は、『やった』んですよ。
　泥棒と、それに騙された馬鹿を。
　案外簡単でしたよ。思ったより肉の手応えは無くて。嬉しくて何度も何度も刺しちゃった。

　ああ、すっきりした。
　私は今ね、ここ数年で一番穏やかな気持ちなんです。
　もう泥棒はいないし、泥棒に絆されるような愚かな夫ももういない。なーんにも悩まなくて良いんだなって。
　子供がいなかったのが救いですね。親きょうだいには迷惑をかけますが。

　……ああ、精神鑑定は結構ですよ。逆手に持って滅多刺しをしたら、正気ではなかった、と判断されるのでしょう？
　大丈夫、私は正気ですから。