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2.借金と別れ
『光』は、界隈で並ぶものが無いホストクラブだ。百の店の姉妹店にあたる。このご時世にも圧倒的な集客力を誇り、ホストに入れあげる女たちが絶えない。身を持ち崩してでも男たちへの想いは消えないらしいから、光は恐ろしい所だ。それに、光には早々足を向けられないわけがある。
「……琉貴には、光はつらいだろう」
志生さんがぽつりとつぶやき、その言葉に俺の心はきりりと痛んだ。
店を閉めた後、志生さんが言った。
「なあ、琉貴。さっきの話だけど。どこにも行くとこがないならさ……。うちに来る?」
店が終わると、志生さんの声は低くなり、口調も変わる。営業用とは使い分けているらしい。
「うちはもう親が死んでオレしかいないし、部屋も余ってる。誰にも気兼ねなんかしなくていいから」
「ありがと、志生さん。お気持ちだけ受け取っておきます」
俺はぺこりとお辞儀をした。
俺がバイトしている質屋は、四階建てのビルの一階にある。ビル全体が志生さんが親から受け継いだもので、二、三階はそれぞれ歯医者と設計事務所が入り、四階が居住スペースになっている。
志生さんの手が伸びて、そっと俺の手を取った。細く長い指が自分の手をさり気なく包み込む。綺麗な顔が近づくと、ちょっとドキドキする。流石は人気ホストだっただけのことはある。からかわれているとわかっていても落ち着かない。百のやつ、こんな人が山ほどいる場所に平凡な男を誘うのは勘弁してほしい。
志生さんは元は光のトップで、店を辞める時は女たちが泣きながら押し寄せたと聞く。志生さんの手をぐいぐい外すと、ふふ、と微笑まれた。
「琉貴はさ、何ていうか、一緒に居る人を安心させる力があるんだよ。百の言うように、光に行っても稼げると思う。ただ、客商売は辛いんじゃないかな。この家に一緒に住んでくれたら、俺は嬉しいんだけど」
「ありがとうございます。でも、志生さんには由貴がさんざんご迷惑をかけました。これ以上、俺まで迷惑をかけるわけにはいきません」
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