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翌日、大学の裏庭のベンチで、深々とため息をついていた時だった。
同じ学部の男が隣に座る。何となく目を向ければ、腕につけたプラチナと革の細いバングルが目に入った。
「下取り価格2500、いや今はプラチナが高騰してるから、もう少しいくか……」
「え?」
気づかず口にしていたらしくて、こちらに訝し気な瞳が向けられた。駄目だ、全てを金で換算したい気持ちになっている。客でもない相手に余計な口をきいている場合じゃない。
「あ、ごめん。何でもない」
ごまかすように手を振ると、相手はふと前を見た。
「須崎!」
男が声をかけた先には、ガーデンカフェがあった。天気がいいのでテラスに出ている者が多く、蔦の這う柵越しに、華やかな集団が見える。
派手な男女の真ん中に一際整った顔立ちの男がいた。
須崎愁。男らしい鼻梁にやや太めの眉、切れ長で二重の瞳。声は耳に残るバリトン。
俺は、心の中で悲鳴を上げた。
隣の男が叫んだばかりに、当の須崎がこちらを見る。俺と目が合った瞬間、奴は目を見開いて立ち上がった。周りにいた男女を押しのけて、真っ直ぐに柵に向かってくる。柵とは言っても、円柱が等間隔で並んでいるものだ。装飾の一環なのだろうが、隙間からは出られないし、ニメートル近い高さを乗り越えられるわけがない。
俺は脱兎のごとく走り出した。カフェの出入り口から裏庭に来るには遠回りが必要だ。愁が息を切らして裏庭に到着する頃には、俺は大学の門を出ていた。
「ちょっとー! 今週の売り上げイマイチなんだけど!」
バイト先の質屋の店長、志生さんが叫んでいる。金茶色の髪に薄茶の瞳。髪をハーフアップにして、項の後れ毛も色っぽい。形のいい眉を歪めていても、美人は美人なんだと感心する。ちなみにかなり中性的だが、男だ。
「……志生さん、お客に聞こえるから」
「この時間じゃまだ来ないって!!」
そう言ってる間に、大袋を抱えた若い女が現れた。通り一つ向こうのキャバクラのナンバーワン、百花だ。
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