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番外編 君を笑顔にしたい ※
季節は晩秋に移り、朝晩すっかり冷え込むようになった。
以前のボロアパートなら、いくら暖房をかけても隙間風がひゅうっと吹いたものだ。対策として、炬燵を手に入れ、早寝早起き節約生活。秋から冬にかけての自炊は、専ら鍋一択だった。スープさえ変えれば毎日食べられるし、財布にも体にも優しい。その癖が抜けずに何となく今も、寒いなと思ったら鍋を作ろうと思ってしまう。鍋ならすぐに出来るし部屋もお腹もあたたまる。
「でも、透也さんは、別に毎日鍋じゃなくてもいいんだよな……」
独り言を言いながら、最近はスマホの料理サイトを覗くことが増えた。何でもにこにこしながら食べてくれるけれど、喜んでくれる顔がもっと見たいから。
今夜は何にしようかな……。
真剣に考えながら志生さんの代わりに店番をしていたら、休みだという百花があくびをしながらやって来た。
「るっきー、何だか艶々してる」
「うん。実は最近、太ったような気がして」
「は?」
「いや、きちんと食べて、いい暮らししてるからかなって……」
「イケメンとのラブラブ暮らしで幸せ太りー♡なんて、ふざけんなッ! って感じだけど」
百花がふん、と化粧なしでもバシバシ睫毛の目を細めて言う。
「安心していいわよ、るっきー。あんたは鶏ガラにうっすい肉がついたような体だったのが、人並みに近づいてきただけだから。焼き鳥で言うなら、鶏皮が胸肉になったあたりよ」
「……どんな例えなんだよ、それ。皮から肉になったらすごいだろ!」
普通に肉が付いてると思ってたけど……。確かに貧乏暮らしでろくに食べてなかった時期があったから、痩せてたのかも。毎日必死で、あまり気にしたことがなかった。
バタンと裏口の戸が開いて、ただいまーと志生さんが帰って来た。ふうふう言いながら、手に大きなビニール袋を抱えている。
「いやー、びっくりした。駅前の商店街が、毎年恒例の創業祭でさ。福引きで2等が当たった!」
「えー! 何当たったの?」
「冷凍焼き鳥100本セット!」
百と俺は思わず顔を見合わせた。
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