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「あら、百ちゃん、大量!」
「ボーナスの時期だからぁ、お客に同じバッグねだったら五個ダブった」
「おっけ! 待っててー!」
志生さんはさっきの文句が嘘のように生き生きと働き始めた。数量限定品だと言うブランドバッグを一つ一つ検分しながら、査定額を出していく。
「新作を五つもなんて、さすが百ちゃん! これでどう?」
「やったぁ! 志生さん、ありがとー!」
志生さんの出した金額に、百花は手を叩いて喜んでいた。二人は親子のように楽しげだが、その間にあるのは、男たちの哀れな愛情の残骸だ。貢いだ品を売りさばかれ、愛情は金に変わる。バックヤードから百花の品物を受け取りに俺が出ていくと、百花が桜色の唇を開く。
「あれ、るっきー、今週もバイト?」
「ボーナス時期で、百みたいな客が多そうだって言われたから、臨時で入った」
「やだ―! その通りだわ!」
けらけら笑う声に、世の中は景気が悪いはずなのになと思う。金があるところにはあるってことか。こうして女に貢げる奴がいるんだから。
俺みたいに、年中、金、金って叫んでる奴もいるのにな。よほど淀んだ目をしていたのか、百花が俺を見て不安げに眉を顰めた。
「……るっきー、少しは返せたの?」
「まあね。百は?」
「こっちもまあまあ。半分はいけた」
「おっ! 頑張ってるな」
俺と百花は似た者同士だ。どちらも身内の借金を背負っている。百は親の、俺は、弟の。
「るっきー、顔色悪くない? 大丈夫?」
「……実はもうじき、住む家がなくなるからさー、どうしたらいいかなって思って」
「へ? 何で?」
「うちのオンボロアパート、壊すんだって。立ち退けってさ」
「えええー!」
百も、志生さんも目を丸くしている。
「そんなぁ……、いざとなったら『光』に来るー? 寮あるよ」
「お前、顔は可愛いくせに鬼のような女だな。俺なんかが、あの光で働けるわけないだろ」
「えー、そうかなあ? るっきー、顔はフツメンだけどさあ、なんか人当たりいいし、案外いけると思うんだよね。百がいつでも紹介してあげるよぉ」
「マジでいらねえ。気持ちだけ受け取っとく」
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