1.立ち退き

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「あら、(もも)ちゃん、大量!」 「ボーナスの時期だからぁ、お客に同じバッグねだったら五個ダブった」 「おっけ! 待っててー!」   志生(しお)さんはさっきの文句が嘘のように生き生きと働き始めた。数量限定品だと言うブランドバッグを一つ一つ検分しながら、査定額を出していく。 「新作を五つもなんて、さすが百ちゃん! これでどう?」 「やったぁ! 志生さん、ありがとー!」  志生さんの出した金額に、百花は手を叩いて喜んでいた。二人は親子のように楽しげだが、その間にあるのは、男たちの哀れな愛情の残骸だ。貢いだ品を売りさばかれ、愛情は金に変わる。バックヤードから百花の品物を受け取りに俺が出ていくと、百花が桜色の唇を開く。 「あれ、るっきー、今週もバイト?」 「ボーナス時期で、百みたいな客が多そうだって言われたから、臨時で入った」 「やだ―! その通りだわ!」  けらけら笑う声に、世の中は景気が悪いはずなのになと思う。金があるところにはあるってことか。こうして女に貢げる奴がいるんだから。  俺みたいに、年中、金、金って叫んでる奴もいるのにな。よほど淀んだ目をしていたのか、百花が俺を見て不安げに眉を顰めた。 「……るっきー、少しは返せたの?」 「まあね。百は?」 「こっちもまあまあ。半分はいけた」 「おっ! 頑張ってるな」  俺と百花は似た者同士だ。どちらも身内の借金を背負っている。百は親の、俺は、弟の。 「るっきー、顔色悪くない? 大丈夫?」 「……実はもうじき、住む家がなくなるからさー、どうしたらいいかなって思って」 「へ? 何で?」 「うちのオンボロアパート、壊すんだって。立ち退けってさ」 「えええー!」  百も、志生さんも目を丸くしている。 「そんなぁ……、いざとなったら『(ひかる)』に来るー? 寮あるよ」 「お前、顔は可愛いくせに鬼のような女だな。俺なんかが、あの光で働けるわけないだろ」 「えー、そうかなあ? るっきー、顔はフツメンだけどさあ、なんか人当たりいいし、案外いけると思うんだよね。百がいつでも紹介してあげるよぉ」 「マジでいらねえ。気持ちだけ受け取っとく」
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