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番外編 ハロウィンの訪問者
「はっぴー! ハロウィーン!!」
わあっと賑やかな声と共に、ビールやチューハイの缶を持つ手が上がる。
見上げれば、見事な青空が広がっている。
本日はハロウィンパーティを兼ねた、焼き鳥パーティだ。俄然やる気になった志生さんが百花と俺、そして仲のいい『光』のホストたちに声をかけた。折角なら外がいいけど遠出は面倒だと言うので、会場は志生さんの住んでいるビルの屋上だ。
穏やかな天気の下、業者にレンタルしたというバーベキューコンロが二台並んでいる。
「何で、ハロウィンに焼き鳥……」
「志生さんが福引きで当たったからだって」
整った顔をした、すらりと背の高い男たちが眠そうな目を擦っている。顔面偏差値の高さは、さすが光の現役ホストたちだ。深夜まで仕事に励んだ後、元先輩である志生さんの誘いに乗ってやって来たのだから、彼らは律儀なところがある。
「休日の昼に皆で焼き鳥パーティー……。最高だな」
とびきり整った顔の志生さんが串を持って微笑んでいるのは微妙だが、俺はそれどころではない。
なぜか焼き鳥用の串の脇に、殻付きのホタテ貝やチョリソー、牛肉とパプリカが交互に刺さったジャンボ串のパックがある。焼くものが多すぎる。
「……志生さん、これも焼くの?」
「あっそれ、皆からの差し入れー!」
男たちの間でつくね串にかじりついていた百花が叫ぶ。周りの男たちが軽く頭を下げると、志生さんが笑顔で礼を言う。光と聞くと、俺は胸が痛くなるけれど、誰も弟のことには触れない。それは志生さんが気を回してくれているのだろう。
「るっきーも焼いてばっかりいないで、食べたら?」
「百! お前、そう言いながら、全然自分で焼く気ないだろ!」
「……るっきーの焼いたのが一番美味しい」
「うっ。……そうかよ」
……なかなか心に迫るセリフだ。
しかし、今いるメンツの中でまともに焼けるやつは僅かだった。元々焼き鳥屋でバイトしていた経歴のあるホストと俺だけだ。残念ながらやる気はあっても、志生さんたちは次々に肉を炭に変えていた。
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