番外編 ハロウィンの訪問者

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 ほぼ全てを焼き終えた時、志生さんがシャンパングラスを持ってきた。プラカップじゃないのがすごい。変なとこだけ本格的なんだよな。 「琉貴。今日はありがとな。ずっと焼かせちゃってごめん。これ、美味しいから飲もう」  屋上に用意された簡易テーブルの上に白いクロスが引かれ、本物のグラスが幾つも綺麗に並んでいる。隣のワインクーラーには氷と白ワインだ。そして、深緑に金のラベルのシャンパンが輝いている。 「お土産にって高倉が持ってきたんだよ。折角だから、はい」  グラスを持たされ、笑顔で志生さんがボトルを傾ける。黄金色の液体が注がれた。  酒はだめだ、危ない。弱いから、ろくなことにならないと俺は知っている。それでも、シャンパングラスの中の金色の輝きには惹かれた。それに、串物を焼いた後の冷たい飲み物は美味い。  志生さんから受け取った香りのよい酒は、するりと喉を通った。 「琉貴、あとは俺たちがやるからゆっくりしてていいよ」  椅子に座って志生さんに言われるままに酒を飲んでいたら、あっという間に酔いが回った。体中が熱くなって、ほわほわしている。  天気もいいし、風も穏やかだ。なんだか幸せだなあと思っていたら、シャンパンのボトルを片手に高倉さんが隣に座った。  高倉さんは、志生さんの元同僚だ。今はホスト業を引退して、別の仕事をしてるって聞いた。澄んだ瞳をした人で、志生さんがあいつはいろんなものが見えるんだよと意味深なことを言っていた。でも、そうだろうなと自然に思うくらい、綺麗な瞳をしている。 「シャンパン、気に入ってもらえたみたいで嬉しいよ」  甘さと深みのある低い声がして、俺のグラスに残りのシャンパンが注がれた。俺は声のいい人が好きだ。 「これ、すごく……美味しいです。それに、高倉さんっていい声ですよね。……耳元で囁かれたら、すぐにクラッときそう」  高倉さんがいきなり笑い出した。  ……えっ、もしかして、全部声に出てた?
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