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「ありがとう。じゃあ、褒めてもらった御礼に、ちょっと占い」
「えっ?」
高倉さんの色素の薄い瞳がじっと俺の目を見た。なんだか心の奥までのぞかれそうだ。
「琉貴くん、今夜は不思議なことがありそうだ。ただ、悪いものじゃないと思うよ」
「……はあ」
「ハロウィンだからね」
……やっぱり、酒はよくないな。高倉さんの言っていることが何もわからない。
眉を顰めた俺の顔を見ながら、高倉さんはにこっと笑った。
「ただいまー」
夕方近くに、俺はマンションに戻った。透也さんは昨日から一泊で出張だ。志生さんの焼き鳥パーティーに行きたがっていたのに気の毒だった。残った焼き鳥をもらってきたから、これで元気を出してもらおう。
ドアを開けた時だった。
するりと足元に何かが飛び込んだ。
「ん?」
中に入っていくと、リビングに特に変わりはない。それでも、何かが違う。何だろうときょろきょろすると窓際のカーテンが少しだけ揺れている。
「……戸締りはちゃんとしたはずなんだけど」
カーテンをめくっても何もいないし、窓にはしっかり鍵がかかっている。まだ酔いが残っているのだろうか。ソファーに横になると、急に眠気に襲われた。
透也さん、何時に帰るって言ってたっけ。
時計を見ながら、うとうとする。リビングのドアがキイと小さく開いて、風が玄関に向かって吹いていく。
……ああ、ちゃんと閉めないと部屋が冷えるな。
それでも眠気には逆らえず、俺はそのまま眠ってしまった。
どのくらい眠っていたのか。少し肌寒いなあと体が震える。両手で体を抱くようにして背を丸めていると、腹から上腕に柔らかいもので踏まれるような感触がある。
何だろう、小さい。猫か、犬ぐらい……。あ、あったかい。
急に首の周りがふわりと温かくなったと思ったら、手と胸の間に何かがもぞりと入って来た。びっくりしたけれど、腕の中で丸くなる柔らかな感触はどこか懐かしい。
「……ふわふわ」
ふふ、気持ちいい。小さな耳が頬をくすぐる。猫でも犬でもいいや。俺、動物は好きなんだ。ぺろりと顎を舐められた気がする。これは、いい夢だなあ。
寝ぼけていた俺は、あたたかな存在を抱えたまま、もう一度眠ってしまった。
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