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「るき……、琉貴」
「ん?」
「起きて。こんなところで眠ったら風邪ひくから」
額に柔らかな唇が触れる。
「……透也さん? おかえり」
「ただいま。遅くなってごめんね。まさか、こんな時間になるとは思わなかった」
こんな時間?
ぱちっと目を開けたら疲れた顔の透也さんがいる。起き上がって時計を見たら、もう12時を回っていた。
「透也さん、俺、すっかり寝ちゃってたんだ。あれ?」
ソファーの脇にフリース地のブランケットが落ちていた。クリーム色の地に色々なポーズの犬の絵がついたハーフケットだ。
起き上がって拾い上げると、透也さんが目を見開いている。
「変だな、こんなの家にあったかな?」
「……それは、オレオのブランケットだ。僕の部屋に置いてあったはず」
俺たちは顔を見合わせた。もちろん、俺が持ってきたわけじゃない。
愛犬のオレオが死んだあと、透也さんがどうしても捨てられなかったものがある。それが、首輪とこのブランケットなんだと言う。
「他の物は少しずつ処分したんだ。琉貴が来てから、僕も少しずつ前向きになれたから。でも、このブランケットは捨てられなかった。僕はしょっちゅうソファーでうたた寝する癖があって、いつもオレオがブランケットをくわえて、肩にかけてくれたんだ」
「……その後さ、腕の中に入って来る?」
「何で、それを……。僕、琉貴に言ったことあったっけ?」
俺は首を横に振った。
酔いの抜けた頭に、あたたかな温もりが甦る。
「寝てたら体の上に小さな何かが乗ったんだ。肩のあたりが温かくなって、腕の中にふわふわしたのが入って来た。すっかり夢だと思ってた」
透也さんは真剣に聞いた後に、着替えると言って部屋に入った。いつもならすぐに戻って来るのに、なかなか部屋から出てこない。
俺はその間に、台所に立った。何となく温かい飲み物を出したかった。夜遅いからコーヒーやお茶はやめた。ホットミルクに砂糖を入れ、ラム酒をひとたらし。
部屋から出てきた透也さんの目は真っ赤だった。手には、小さな青い首輪があった。
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