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「透也さん、ホットミルクあるよ」
「あり……がと」
透也さんは、ローテーブルの上に首輪を置いた。俺はソファーに座る透也さんの隣に座る。
壁のカレンダーは10月だ。一枚剥がさないと、と思った時に、昼間言われたことを思い出した。高倉さんの不思議な言葉を。
「ハロウィンだから……ってなんでだろ。ハロウィンってお祭りだよね」
「いや、どっちかって言うとお盆」
「へ? お盆?」
透也さんが、ハロウィンは元々ケルトの風習で『死者が帰ってくる日』だと言った。
死者が帰ってくる日? それなら、もしかして?
「……透也さん、オレオってカーテン好きだった?」
「好きっていうより、カーテンから外を見て、よく散歩に連れてけって催促してたけど。僕が支度してると、今度は玄関に行って待ってるんだ」
ああ、そうだったのか。
カーテンを揺らしたのも、その後、玄関に向かったのも。
「あのさ、透也さん。俺、酔っ払って寝ぼけてたし、変なこと言ってるのかもしれないけど」
「琉貴?」
「オレオ、帰ってきたのかもしれない」
俺が不思議な風が吹いた話をすると、透也さんはとうとう、ティッシュを箱ごと抱えてしまった。ぼろぼろと涙をこぼしている。
「……ど、どうして。ぼ、僕のとこに来て……れないんだ」
「違うよ、透也さん。オレオは来たんだよ。透也さんに会いに。確か亡くなったら虹の橋を渡った向こうで待っていてくれるんだっけ。橋の向こうからこっちに、帰ってきたくなったのかもしれないよ」
「じゃ、じゃあ何で、もう……いなくなって」
「……ハロウィンが終わったから、かな?」
透也さんが帰った時にはもう、12時を過ぎていた。透也さんは今度こそ、声もなく泣いている。俺は手を伸ばして、胸の中に透也さんの頭を抱きしめた。
「ねえ、透也さん。きっとまたいつか、来てくれるよ。それに俺、少しだけでもオレオに会えて嬉しかった。あんなにあったかくて優しい子が、ずっと透也さんの側にいたんだな」
「……琉貴も、あっ……たかい」
「うん。よかった」
俺は透也さんの髪にキスをして、肩にオレオのハーフケットをかけた。透也さんの頭をよしよしと撫でる。
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