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駅前のデカいツリーを見ながら思わず立ち止まる。
「由貴、どうした?」
「いや、この時期にクリスマスツリー見ると思い出すことがあって」
「思い出すこと?」
「うん。うち、母親がイベント好きで俺はウザ、って思ってたんだけど。兄貴はいつも黙ってツリーの飾りつけとか手伝ってたなあって思って」
「由貴が家族の話すんの珍しいな。由貴の兄貴って……、お前と似てんの?」
「……ちっとも」
あいつは背も顔も普通だし、とりたてて目立つところもない。ただ。
「兄貴は、俺なんかより、ずっと……」
「ずっと?」
「……何でもない。もう、行こう」
言いかけた言葉を、俺は口の中で飲み込んだ。
◇◇◇
晴天の休日。
俺と透也さんは、二人でショッピングモールに出かけることにした。駅を挟んで住んでいるマンションの反対側、ちょうど徒歩15分位の場所にある。日用品は何でも揃うし、散歩代わりになる。
「最近忙しかったから、たまには琉貴と一緒に買い物に行って、二人でゆっくりご飯食べたい」
朝食を食べながらそんなことを言われたら頷くしかない。いいよと言えば満面の笑顔が返ってきて、朝から心臓に悪い。
「そうだ! 透也さん。これから本格的に鍋のシーズンだから、小ぶりな土鍋が欲しい」
「うん、じゃあ、一緒に選ぼう」
透也さんはそわそわしながら朝食を終えた。さっと自分の部屋に戻ったと思ったら、濃い青のセーターにキャメルの薄いブルゾンを重ね、細身のジーンズ姿で現れる。スーツやラフな部屋着もいいけど、カジュアルな格好もいい。
イケメンは何を着ても様になるなあ、と思わず見惚れていたら、変? と聞いてくるので、ぶんぶんと首を横に振った。
「すごく似合ってる。俺こそ、いつものパーカーにジーンズだけど、いいかな」
「琉貴は何着てても可愛いよ」
透也さんはそう言って微笑んだ。頬がじわじわ熱くなる。
誰に言ってるんだ、大丈夫か? と思うようなセリフだけど、透也さんは大真面目だ。何しろ、道を歩く時も、当たり前のように俺と手を繋ぐような人だ。最初は人目が気になって気になって、仕方がなかった。
「じゃあ、琉貴が慣れるまで、ここならいいって場所で手を繋ごう」
そう言われた時は、思わず涙が出そうになった。
当たり前のように自分を優先してもらったことなんて、今まであったかなって思ったから。
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