1334人が本棚に入れています
本棚に追加
眉を顰めたままぶつぶつ言ってる透也さんは何だかすごく可愛い。俺はぴたりと体を近づけた。恥ずかしいから、自然に小声になる。
「……俺は透也さんが一番だよ」
「うっ……。も、もう家に帰る」
「えっ? 今来たばっかりでしょ? まだ何も買い物してないし、ツリーしか見てないよ」
「だって、外じゃ……さすがに琉貴にキスも……できないし」
……ぐっと、きた。まずい。このままじゃ、絆されてしまいそうだ。
「透也さん、土鍋だけは見に行こう。いいのがあったら、約束してた水炊き作りたいんだ。食べたがってたよね」
「……水炊き」
透也さんが頷く。先日の焼き鳥以来、鶏肉の料理がよく食卓に上る。寒くなってくると水炊きが食べたくなると言うので、俺はレシピサイトをチェックしまくったのだ。
「お揃いの小丼も買う? 少しお腹がすいた時にも使えるし、鍋物の器にもなるし」
「……おそろい」
どうやら嬉しかったようだ。ニコッと笑う透也さんに、そっと手を伸ばす。自分から手を繋いだことなんてない。かなりドキドキするけれど、男は度胸だ。
えいっと心の中だけで掛け声をかけて、手を握った。透也さんが目を見開いたあとに、ぎゅっと握り返してくれる。
俺たちは手を繋いで、ショッピングモールの中を歩いた。どちらも黙ったまま、少しうつむいたまま。
……手が熱くて、まともに目が合わせられない。
モールの中は専門店街と、大きなスーパーに分かれている。スーパーの食器売り場に着くと、手前の目立つ場所に土鍋が展示されている。大きめのものが多かったが、一つだけ、少し丸くて小ぶりな土鍋があった。ベージュの地に太めの青と細いオレンジのチェック模様が入っている。
「これ、かわいい」
「……うん、二人で食べるのに丁度よさそう」
「シチューやポトフも作れる」
「僕、どっちも大好き」
俺たちはようやく目を合わせた。透也さんはうっすら頬が赤くて、耳も赤い。
「琉貴、顔が赤い」
「透也さんだって」
おかしくなって、お互いに吹き出した。俺たちは、ころりと丸い土鍋を買うことにした。
最初のコメントを投稿しよう!