1322人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
「い、一緒に……暮らしているので」
「……は?」
イケメンがびっくりしたような目で見るので、とりあえず中へどうぞ、と言った。透也さんのお兄さんの眉が顰められる。背中に視線が刺さりまくっている。
リビングはさっきまで暖房が入っていたので暖かいが、俺の心は嵐のようだった。透也さんの家族は4人で、ご両親とお兄さんがいることぐらいしか知らない。
ソファー周りに目を走らせ、散らかしてなくてよかったと思いながら、何とか笑顔を作った。
「あの、お茶、淹れましょうか?」
イケメンが頷き、何がいいかと聞けばコーヒーと言われた。ちらりと見れば、コートを脱ぐ仕草も優雅だ。
ああ、ハンガーがいる。
玄関に走って取って来たハンガーを手渡すと、じっと涼し気な瞳に見つめられた。
「ありがとう。君は、いつからここに?」
「えっと、五か月ぐらい……です」
「五か月!」
ひっ! と叫びそうになるのを飲みこんだ。目の前のイケメンの視線から逃れるように、俺は台所に走った。
何で? と言われるのは目に見えている。
どうしよう。何て言えばいい?
恋人です。
透也さんとお付き合いしています。
……無理、無理、無理!
初対面なのにそんなこと言えるわけがない。
友人だ、友人で行こう。自分の心の臆病さに情けなくなるが、何事も段階ってものがあるはずだ。
手が震えるのを堪えながら、何とか二人分のコーヒーを淹れてリビングに運ぶ。透也さんのお兄さんはブラック派だった。
一口飲んで、イケメンの口元が緩んだ。
「美味しい」
「あ、よかったです。ちょうどクリスマス用のブレンドを買ったので」
「今日はイブだからな。透也は土日は休みだったと思うが」
俺は透也さんに急な出張が入ったことを話した。イケメンは頷いて、兄弟で似たようなことになっているな、と言った。
仕事の代打で近くまで来た。久々に弟に会おうと連絡を取ったら少しも繋がらないので、直接来たのだと言う。
ふと、カップをソーサーに置く指が目に留まる。長くて綺麗な指は、透也さんとよく似ていた。
最初のコメントを投稿しよう!