番外編 聖なる夜に

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「……ところで」  ……きた!  透也さんのお兄さんは、部屋の中をきょろきょろと見回している。怪訝な顔に動悸が激しくなる。出来るだけそつ無く、あまり不信感を抱かれないことが大切だ。俺の頭の中で、幾つも質問と回答が交叉する。 「君が透也と一緒に暮らしているのは、犬の世話を頼まれたからか?」 「えっ?」 「ここに来たことは一回しかない。透也が犬の為にマンションを買ったと聞いて、様子を見に来た時以来なんだ。でも、あの小さいのが見当たらないな」  イケメンが部屋を見回していたのは、オレオを探していたのか。 「私は、あの子が一人暮らしなのに犬を飼うと言った時に反対したんだ。何かあったら困るだろう? 生き物を飼うというのは金だけじゃない、体力も時間も使う。病気になった時には、世話の為に仕事を休めるかということもあるだろうし」  真摯な瞳にびっくりした。透也さんのお兄さんは、生き物のことをきちんと考える人なんだ。 「あの……。犬は、オレオはもう亡くなったんです。半年以上前になります。俺はオレオの代わりに拾われたようなもので」 「拾われた?」 「……!!」  イケメンの眉間に一気にが皺が寄った。  何故だ、俺。どうして余計なことを言ってしまうんだ……。心の中で自分を怒鳴りつけても、一度口にした言葉は戻らない。  真っ直ぐな瞳に射抜かれて、俺はボロアパートからの立ち退きを迫られ、透也さんと一緒に住んでいることを話した。恋愛関係は除いて。真剣に聞いていたイケメンは、ふう、と小さなため息を漏らした。 「あの子は昔から、弱った生き物を保護したがるところがあるからな」 「……は?」 「君は苦学生なんだろう? まあ、このうちは部屋も余っているし、人助けは悪いことではない」    俺を見る瞳に憐れみが宿る。いや、ちょっと違うんだけど! しかし、ここはその路線でいくべきなのか。  イケメンがちらっと壁に掛けた時計を見た。 「ところで君、夕飯は食べたか?」 「え? いえ、まだ」 「今夜の予定は?」  ぶんぶんと首を横に振ると、ふっと口元に笑みが浮かぶ。その微笑みがとても綺麗で、透也さんによく似ていて、俺の心臓は大きく跳ねた。  一人きりのイブは寂しいからな。  イケメンがそう言って、食事に行くかと言った時に、俺は叫んでいた。うちで食べよう、用意はしてあるから、と。
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