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達也さんはケーキを食べた後に、じゃあ、と言って立ち上がった。
泊まらないのかと聞けば、恨まれたくないからねと笑う。宿泊先のホテルは、ここから歩いて5分位の場所だった。
「琉貴くん、またね」
「はい、ありがとうございました」
拗ねた顔の透也さんは、俺の手をぎゅっと握りながら兄を玄関まで見送った。
リビングに戻ると、透也さんは黙って俺を抱きしめる。ぎゅうぎゅう力が強くなる彼の背に手を回す。
「……帰ってきてくれて、ありがとう」
「予定より早く終わったから、新幹線に飛び乗ったんだ。もう絶対、クリスマスに出張なんか行かない」
「そんなの、選べないでしょ」
見上がれば視線が合って、拗ねた表情はいつもより幼い。俺の前ではいつもずっと大人なのに、今日の透也さんは子どもみたいだ。どちらからともなくキスをすると、あっという間に吐息が熱くなった。透也さんは何度も俺の髪を撫でながら、どうして泣いたのと聞く。
「もしかして、透也さんは今まで俺に同情してたのかもって思ったから」
小さな声で言うと、抱きしめる力が強くなる。すぐに顔中にキスが降ってくる。
「琉貴はいつも大変そうだって思うけど、同情はしてない。琉貴はすごい。悩んでも、最後は自分の足で立とうとする。そこに魅かれるんだ」
「……うん」
心の中に温かいものが湧いてくる。達也さんの言葉が耳の奥に甦る。
――透也は君のことを、ずっと大切にする。そこは保証するから。……だから、あの子をよろしく。
「琉貴、兄さんと何を話した?」
「ないしょ」
「……ずるい」
眉が寄せられて、形のいい唇が尖っている。透也さんの胸に顔をすりつけると、甘いため息が聞こえた。
「じゃあ、ベッドの中で聞いてもいい?」
「うん。俺も透也さんに聞きたいことがあるんだ」
「ん?」
「達也さんから聞いた、透也さんの昔の話。美人とばっかり付き合ってたって」
透也さんの瞳が真ん丸になって、俺は思わず吹き出してしまった。
「……もう、絶対! 二度と兄さんはこの家に入れない!! あのね、琉貴。お願いだ、よく聞いてほしい」
必死な透也さんは、聞いたら本当になんでも答えてくれそうだ。泣きそうな顔をしてるから軽く触れるだけのキスをする。ほっとしたような顔が可愛い。
「うん、たくさん教えて。それから」
――この後はずっと、一緒にいて。
透也さんが俺の頬を両手で挟んでキスをする。互いの熱を分け合って、口づけはすぐに深いものに変わる。
たくさん話していこう。過去のことも未来のことも。
聖なる夜は続き、二人きりの夜はこれからだから。
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クリスマス番外編、完結です。お読みいただき、ありがとうございました(о´∀`о)またいつか、お目にかかれますように!
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