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それには驚きすぎて、自然と何も言えなかった。 「その1回だけだから。」 「1回・・・だけ・・・?」 1回だけ、ホテルのスイートルームで相談を聞いたの・・・? 1回だけ、ホテルのスイートルームで・・・何の相談をされたの・・・? 小池さんに用意されていたホテルのスイートルームで・・・ ホテルの、スイートルームで・・・ 「うん、1回だけ。」 その答えに・・・昔、武蔵の部屋で見てしまった避妊具の箱を思い出してしまった。 思い出してしまった・・・。 「武蔵・・・。」 部屋に入ろうとしている武蔵を途中で呼び止めた。 呼び止めて、勝手に半歩だけ武蔵の部屋に入った・・・。 武蔵から扉を少し強く閉めようとされたけど、一瞬・・・扉のすぐ隣にある棚の上を見た。 そして、笑った・・・。 30歳の女にもなると、掠れた短い笑いになった・・・。 また、あったから。 武蔵の部屋の棚、昔見た場所に・・・また避妊具の箱があったから・・・。 それだけを確認し、また半歩戻って部屋の外に。 「おやすみなさい。」 武蔵の返事を待つことなく自分の部屋に入った。 部屋に戻って、パジャマに着替えることもなく化粧を落とすこともなく、ダブルベッドにうつ伏せで倒れ込んだ。 そして、ギュッと目を閉じた。 「会いたい・・・。」 会いたい・・・。 会いたい・・・。 “武蔵”に会いたい・・・。 私は“武蔵”に会いたい・・・。 会いたい・・・。 会いたい・・・。 .
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