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大きな大きなお屋敷。
その中で私は鼻歌を歌いながら小走りで進んでいく。
大股ではなく、小股で。
自分の姿を見下ろして自然と笑顔になってくる。
今日は19歳の誕生日。
お父さんとお母さんと料亭で食事をしたので、誕生日にと買ってくれた薄ピンク色の着物を着ている。
可愛い可愛い着物。
その着物を着て、お屋敷の中を小走りで進んでいく。
長い長い廊下・・・。
そこに、私の大好きな人の後ろ姿が。
見付けた瞬間、抑えられないニヤけた顔と大きく高鳴る心臓の音。
この可愛い着物をあの人は何て言ってくれるか。
どんな顔をしてくれるか。
私は“美人”だから。
“小町”という名の通り、私は“絶世の美女”と言われている。
小野小町のように歌は詠めないけれど、私は“絶世の美女”とは言われている。
そんな私がこんなに可愛い着物姿になって、あの人は何て言ってくれるか。
どんな顔をしてくれるか。
考えただけでドキドキとしたしワクワクとした。
胸を両手で抑えながら大好きな人の名前を呼んだ。
大好きな大好きな人の名前を。
「武蔵!!!」
大好きな武蔵が立ち止まり、ゆっくりと・・・
ゆっくりと、振り返る・・・。
私に、振り返る・・・。
振り返る・・・
瞬間・・・
力ずくで両目をこじ開けた。
こじ開けてみせた。
こじ開けた目からは、今日も大量の涙が流れていた・・・。
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