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フラフラと揺れ出そうとする私の器を一定に保つ。 多くの社員達が二次会にまで参加していく中、その全員に挨拶をして私は帰ることにした。 絶対に酔っている私の姿に姫は驚いていて、すぐに矢田さんを呼んでしまった。 でも、矢田さんの周りには多くの男女がいて・・・その中にあの営業部の女の子も。 その女の子が酔っぱらっている素振りで矢田さんの腕を両手でしっかりと掴んで放さず。 それに嬉しく思いながら矢田さんにも挨拶をして歩きだした。 矢田さんはとても優秀な人で、とても優しい人で、私の婚約者に決められてしまったとても可哀想な人で。 そんな矢田さんを悪く言われるのは嫌だったから。 あの女の子にも矢田さんの良さを分かって貰えて純粋に嬉しかった。 純粋に、嬉しかった・・・。 そう思いながら駅までの道を1人で歩く・・・。 途中で何人かの人に声を掛けられたように思ったけど、何も頭に入ってこなかった。 器の中にも入ってこなかった。 フラフラと揺れだした器を筋肉だけで動かし前に進む。 1人で、前に進む。 1人で進もうと思う。 屋敷に残されるのは嫌だから。 私は父親から屋敷に残る妻であるようには育てられていないはず。 私も刀を持って戦う女に育てられた。 右手でも左手でも戦える女に。 右手がなくなろうと、太刀がなくなろうと、どんな武器でも戦える女に。 夫となる矢田さんも戦場で戦う。 そこで、私も1人で戦う。 1人でも闘える女に私は育てられたから。 最後の最後まで、出せる力を全て出しきり戦うように育てられたから。 脇差を差したまま討たれはしない。 討たれる時は脇差までも武器にしてから討たれる。 フラフラと揺れる器・・・。 でも、不思議と・・・ 中に溜まっている水はタプタプと静かに揺れるだけ。 静かだった・・・。 とても静かだった・・・。 戦うのに、とても静かで・・・。 研ぎ澄まされる・・・。 研ぎ澄まされていく・・・。 そう感じた時、 「小町さん!」 静かな静かな器の中で、私の名前を呼ぶ声が響いた・・・。 それが器の中で反響していく・・・。 それには笑いながら振り向いた。 笑いながら振り向き、声の主を見た。 矢田さんだった。 私の夫となる矢田さんだった。 「フラフラですね、送ります。」 「ありがとう。」 矢田さんはとても優しくて。 とても、優しくて・・・。 可哀想な人だけど、この人がそれを受け入れてくれるのなら・・・。 そこに愛はなくても、この人がそれを受け入れてくれるのなら・・・。 あと1ヶ月・・・。 立冬までの1ヶ月・・・。 秋の夜長だから・・・ 夢を見よう・・・。 1ヶ月後の立冬の日、そこに愛もある夢を・・・。 私の右手もなくなり、太刀もなくなり、脇差までなくなった恋の戦場。 他に使える武器もなく、あるのは利き手ではない左手だけ。 この左手1本で私は戦う。 最後の最後まで・・・。 隣に歩くこの人をチラリと見上げる。 恋の戦場で、私はこの人と戦う。 この人と左手1本で戦って・・・ 戦って・・・ 愛を討ち取る・・・。
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