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私だけの屋敷に到着し、桜の鈴がついた鍵で鍵を開けた。
チリン─...と儚く小さな音を聞いた後・・・ゆっくりと矢田さんを見た。
矢田さんは優しい笑顔で・・・
「お疲れ様でした、おやすみなさい。」
そう言ってきた。
桜の鈴を握り締める・・・。
もう二度と会うことは出来ないはずの大好きな人から貰った物。
それを握り締めながら矢田さんを見る。
そして、口を開いた・・・
「少し、寄っていかない?」
私だけの屋敷に婚約者である矢田さんを招き入れる・・・。
ここは私だけの屋敷。
小さくて古い私だけの屋敷。
こんな屋敷に矢田さんが足を踏み入れてくれるか分からないけど・・・。
今は、ここが私だけの屋敷・・・。
明らかに考えている矢田さんを見て少しだけ泣きそうになった。
桜の鈴を痛いくらいに握り締める・・・。
「秋の夜長に夢を見せて。」
「夢を・・・?」
「恋の夢を見せて。」
花は色褪せていないかもしれない・・・。
私の器の中に水が溜まり、こんなにも研ぎ澄まされていくから。
それに、この人が言うには、私は父親から戦場での戦い方を教わっている。
どんな武器でも使ってみせる。
利き手ではない左手だけしかないのなら、“花”だって使ってみせる。
立冬まで1ヶ月。
きっと“花”は色褪せていないと信じながら、この人との恋の戦場で戦う。
1ヶ月後、そこに愛があるように。
好きな人と、愛する人と結婚出来ているように。
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