854人が本棚に入れています
本棚に追加
「それ、どういう意味なんだろう?」
矢田さんのお父さんは、なんというか・・・“見える人”で。
私が聞くと矢田さんは困ったように笑い・・・
「恐らく、刀を1本捨てたんだと思います。」
「捨てたの?自分から?」
「自分から。」
卵かけご飯を食べ終えた矢田さんが、そんな驚くことを言ってきた。
「戦うのを止めたの・・・?」
「違う、戦う為に捨てました。」
「戦う為に?」
聞いた私に矢田さんが“真剣”な顔で頷いた。
「あの刀では戦えなかったので。」
「そうなの・・・?
今は何で戦ってるの・・・?
他の武器・・・?」
「いえ、俺は他の武器でも戦えるような器用な男ではないので。
刀しか使えません。」
「じゃあ、もう1本の・・・?
でも、もう1本って・・・」
私が言葉を切ると、矢田さんが優しい顔で笑って・・・
「脇差しですね。」
「でも、それ・・・最後の・・・。」
「そうですね、俺の最後の武器です。
脇差しを差したまま討たれるわけにはいかないので、最後の最後まで力を出しきろうと決めました。」
そう答えた矢田さんはお皿とお箸を持ち上げ、慣れた様子で食器洗いをしていく。
私だけの屋敷でそんなことをするのは初めてなのに、慣れた様子で・・・。
「矢田さんって、女の人の家に入ったことある?」
「それは・・・はい、まあ。」
「女の人とそういうことしたことあるんだよね・・・?
そういうことって・・・そういうことなんだけど・・・。」
以前、これは矢田さんに聞いたことがあった。
「はい、まあ。」
今年37歳の矢田さん。
私とは10年も婚約しているけれど・・・。
その間に私とはそういうことはなくて。
でも、婚約した時矢田さんは26歳で。
26歳で・・・。
その前にだって、その前にだって・・・何かあってもおかしくはなくて・・・。
「私、そういうこと何もしたことなくて。」
「そうですか。」
「私もしてもらえるのかな?」
「しなくてもいいと思いますけど。」
矢田さんが・・・
婚約者でもある矢田さんが・・・
そう言った・・・。
最初のコメントを投稿しよう!