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「それ、どういう意味なんだろう?」 矢田さんのお父さんは、なんというか・・・“見える人”で。 私が聞くと矢田さんは困ったように笑い・・・ 「恐らく、刀を1本捨てたんだと思います。」 「捨てたの?自分から?」 「自分から。」 卵かけご飯を食べ終えた矢田さんが、そんな驚くことを言ってきた。 「戦うのを止めたの・・・?」 「違う、戦う為に捨てました。」 「戦う為に?」 聞いた私に矢田さんが“真剣”な顔で頷いた。 「あの刀では戦えなかったので。」 「そうなの・・・? 今は何で戦ってるの・・・? 他の武器・・・?」 「いえ、俺は他の武器でも戦えるような器用な男ではないので。 刀しか使えません。」 「じゃあ、もう1本の・・・? でも、もう1本って・・・」 私が言葉を切ると、矢田さんが優しい顔で笑って・・・ 「脇差しですね。」 「でも、それ・・・最後の・・・。」 「そうですね、俺の最後の武器です。 脇差しを差したまま討たれるわけにはいかないので、最後の最後まで力を出しきろうと決めました。」 そう答えた矢田さんはお皿とお箸を持ち上げ、慣れた様子で食器洗いをしていく。 私だけの屋敷でそんなことをするのは初めてなのに、慣れた様子で・・・。 「矢田さんって、女の人の家に入ったことある?」 「それは・・・はい、まあ。」 「女の人とそういうことしたことあるんだよね・・・? そういうことって・・・そういうことなんだけど・・・。」 以前、これは矢田さんに聞いたことがあった。 「はい、まあ。」 今年37歳の矢田さん。 私とは10年も婚約しているけれど・・・。 その間に私とはそういうことはなくて。 でも、婚約した時矢田さんは26歳で。 26歳で・・・。 その前にだって、その前にだって・・・何かあってもおかしくはなくて・・・。 「私、そういうこと何もしたことなくて。」 「そうですか。」 「私もしてもらえるのかな?」 「しなくてもいいと思いますけど。」 矢田さんが・・・ 婚約者でもある矢田さんが・・・ そう言った・・・。
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