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────────・・・・ 「小町さん、鍵出しますよ?」 そんな言葉が聞こえてきた・・・。 そこで自分の瞼が閉じていることに気付いた。 身体に力は入らないようだけど、力ずくで瞼をこじ開けた。 そして、声の主の方を眼球だけを動かして見てみる・・・。 「矢田さん・・・。」 矢田さんだった。 矢田さんの細い身体が私の身体を支えて、支えながらも私の鞄から鍵を探している。 そして、鞄から鍵を取り出してくれた。 丸い鈴・・・桜の花の柄になっている鈴のストラップが付いている鍵を・・・。 チリン─...と、矢田さんの右手に持たれた鍵、その桜の鈴から儚く小さな音が鳴った・・・。 私だけの屋敷の鍵。 実家の家の鍵は実家に置いてきた。 本当だったら足を踏み入れたくもない場所だから。 そんなことを考えていたら、矢田さんが鍵を開けた。 私だけの屋敷の鍵を。 桜の鈴が付いた鍵で。 私の大好きな人から貰った、桜の鈴が付いた鍵で。 矢田さんが、私の屋敷の鍵を開けた。 矢田さんが、開けた。 矢田さんが・・・。 矢田さんが・・・。 矢田さんは・・・ 矢田さんは・・・ 私の婚約者。 10年も前から、私の婚約者。 この人が、私の婚約者。 11月8日に入籍をする、私の婚約者。
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