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第四話「銀河」
大波乱の三世界会議が閉幕した直後……
研究所の会議室をつつむ空気は重苦しい。
策略も実戦も、ことごとくが未来人の圧勝だ。
しきりに取り沙汰されるのは、ホーリーを課題とする対策協議だった。地球サイドの出席者はフィア、エド、ヒデト、パーテ、ソーマ。異世界からはメネスとアリソンが参加している。ついさっき命の危機にさらされた各世界の重鎮たちは、現在は別室で心身の無事を確認されている最中だ。
お互いに膝を突き合わせ、発言したのはメネスだった。
「通路の防犯カメラが記録した映像だ……」
おのおののテーブルに置かれた電子端末の画面には、ナコトとセラ、そしてミコが侵入者と交戦する模様が無慈悲に再生されていた。古影というのが、その驚嘆すべき外敵どもの呼称だ。
ナコトたちは命がけで敵襲を食い止めたものの、ホーリーの未知なる追撃によって儚くも戦闘不能に陥っている。どう見ても本(?)にされて拘束された結果、いまも三人は行方がわからない。
「ナコト、セラ、さらにはミコまでもが、ホーリーの〝断罪の書〟に封印されたと考えられる。エリーに続いてだ」
暗く告げると、メネスはエドにたずねた。
「本当にホーリーは断言したんだな? カラミティハニーズは、ここにいるフィアを除いて全滅したと?」
「……はい」
弱々しく答え、エドは聞き返した。
「まだ連絡はつながらないんですか、来楽島に乗り込んだという別働隊の久灯さんたちとも?」
「久灯瑠璃絵や江藤詩鶴とは、束の間だが話はできた。知らせによれば、とらわれの伊捨星歌はなんとか救出したそうだ……しかし」
言葉を切り、メネスは頭痛のする額をもんだ。
「しかし現時点では、その三名とも交信は完全に途絶している。断片的に拾った情報から推察するに、やはりホシカ、ルリエ、シヅルもまたホーリーに封印された。それを裏付けるように、時を同じくして……」
メネスが電子端末のチャンネルを切り替えるや、映ったニュースはどれも激しいパニックを訴えている。
異常があったわけではない。むしろ異常がすべてなくなったのだ。世界中に蔓延していた汚染は突如、まとめて消失した。環境の変動が地球のみならず、幻夢境にまで及んでいることは調査が済んでいる。
「時を同じくして、世界の大気、大地、そして海洋は、原初さながらにまで浄化されてしまっている。おそらくは〝断罪の書〟に吸収されたカラミティハニーズの強大な呪力が利用されたんだ」
「綺麗さっぱり環境汚染がなくなってハッピーエンド……とはいかないわね」
警鐘を鳴らしたのはフィアだった。
「ホーリーは、すべてを清めると宣言したわ。風も、土も、水も、呪いも、全部。ホーリーの次なる抹殺の対象は、人類よ。最後の浄化は、もうじき始まる」
ホシカ、ナコト、ルリエ、ミコ、セラ、エリー、シヅル……メネスが苦心して結成した特殊チームは、いまや完膚なきまでに崩壊した。なのでメネスが、こんなふうに別の方面へ助けを請うたのも責められない。
「エド、ズカウバ女王のご様子はどうだ?」
「いまは休憩されています。準備不足な中で、突発的に呪力を消耗した影響でしょう」
「ここまででホーリーに対抗できたのは唯一、ズカウバ女王だけだ。なんとか協力を仰げないかね?」
「要望はしましたが……」
エドは静かに首を振った。
「断られました」
「なぜだ?」
「ホーリーの討伐はカラミティハニーズに一任する、と言って聞きません。人類そのものの成長のため、だそうです」
「そうは言っても、こちらに残された戦力は……」
沈鬱が会議室を支配した。
このままでは、現実も異世界も滅亡する。
もはや打つ手はない、かと思われたそのときだった。
「ひとつだけ方法があるわ。たったひとつだけね」
フィアは提案した。
「それにはエド、あなたの開封の力が欠かせない。お願いだから、最後にみんなの力を貸して。作戦の内容はこうよ」
切実なフィアの説明に、一同はざわついた。
「ぼくは別に構いませんけど……」
「ちょっとギャンブルが過ぎないか?」
「ああ、命がいくつあっても足りんぞ」
「いや、やろう。やるしかない。他にどんな手段がある?」
「成功率が限りなくゼロに近くとも、ただ指をくわえているよりはマシだ」
「〝災害への免疫〟が解散した以上、〝天災への防壁〟が頑張るしかないわ」
あらゆる試行錯誤が繰り返されるうちに、いつしか反対意見はなくなった。
討論をまとめたのはメネスである。
「では決行は、ホーリーの次の攻撃開始と同時だ。この極秘の作戦名は……」
押し殺した声で、メネスはささやいた。
「作戦名は〝戦乙女の再降下〟……」
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