時盗理

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 時は流れるので彼女は僕の願いなんて叶わないでどんどん成長している。高校になると明らかに無視される事も有った。それでも世間でいう臭い汚いなんて言葉が無いのが救い。  そしてまだ一応僕の事を彼女は「パパ」と呼んでくれている。言葉を覚え始めた頃からそれだけは違いがなかった。それを職場で言うと、僕たちはかなり仲の良い親子なのだと言う。僕からしたらもっと仲良く居たいのにだ。  流石に甘える程の事は無くなったけれど、それでもちょっと出かけるときに送り迎えを頼まれる時がある。それは僕に面倒な事ながらもとって喜びでも有った。 「パパ。ちょっと、友達と勉強会だから駅まで送ってよ」  仕事を定時で帰るとこんな事を言うのは普通。このくらいならお安い御用なんだ。でも、その時にちょっと気になった。 「その勉強会ってのは男の子は居るのか?」 「普通に居るよ?」  そんなさも当然の事のように首を傾げられても困る。 「そんなの勉強じゃなくて遊びじゃないか。許さない!」  時に親としての威厳を見せ強い言葉も言わなければならない。 「勉強だって。今までも遊んだことないし、普通の事だよ。パパはちょっと古いんじゃない?」 「どう言おうが男の子が一緒なら許さない!」  断固としてそこだけは譲らない。これは僕のプライドの問題でもある。 「だったら良い。ママに頼むから。パパのケチ」  これはもう涙だった。もちろん彼女の前では見せないが。  そして嫁は平然と彼女を送る。なんなら僕がそれから嫁から説教を受けることになってしまった。父親の威厳なんて全くない。  親子の溝ができてしまったのかと落ち込む日々になってしまった。僕たちは仲良し親子から普通の親子に格下げになってしまうのだろうか。  軽い言い合いから数日の事だった。比較的仕事が楽な時期なので定時に帰るが、その時に彼女が玄関まで慌て出ると「もう帰ったの?」なんて言う。邪魔者扱いなのだろうか。 「今の時期は暇なんだよ。昔っからそうだろ」 「えーっと、うん。そうだよね。でも、家に入るのはちょっと待って。そうだ。アイス食べたいから頼んでも良い?」  このくらいのお願いは良く有った。あくまでも過去形にしないとダメなのは辛い。 「せめて帰るまでに良いなよ。解ったけど着替えてからでも良いかな?」  仕事着のまんまだったのでそのくらい許してくれるだろうと、玄関を上がろうとすると彼女は僕の行く手を邪魔する。 「今日のところはこの子の言う事聞いてみない?」  カバディの攻防戦をしていると嫁が現れて、僕にウインクをしながら語っていた。これは僕からもう言い訳ができない。  しょうがなく帰ったばかりなのに近くのスーパーに向かって買い物をした。その間中、彼女と嫁がどんなことを企んでいるのか気になっていた。  やっと帰るのを許されるとそこは普通の印象しかない。いつも通りの夕食風景だった。 「今日はこの子が晩御飯を作ったんだよ。この間パパに言い過ぎたって思ったんでしょ」  料理も普段と違わない雰囲気だったが、それは彼女が嫁から教わって作ったからみたい。それを聞いた僕は当然喜んだ。彼女を見つめて泣きそうになっている。 「そんなんじゃなくって! そう! 花嫁修業だよ」  明らかに照れている様子があって昔の彼女の笑顔が有った。 「嫁がなくて良いからいつまでも家に居なさいね」  僕が彼女の事を抱きしめながら言う。 「暑苦しい。それにいつかは出るんだから!」  僕の事を離そうとしているが、照れているだけだと言うのは解る。彼女もそして嫁も笑っているから。
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