68人が本棚に入れています
本棚に追加
「……チェッ、いいな。俺も、迎えに来てほしかった。ゼンジが動かな過ぎなんだよ。俺ばっかりガッツイてるみたいで、恥ずかしかった」
プッっと頬を膨らませて、横を向いたまま足組を始めたリク。そんな彼が愛おしくてたまらなくなったゼンジがキスをする。顔が真っ赤にしたリクは、照れ隠しにコーヒーを飲み干した。
リクは、あれから半年間入院した。最初の数ヶ月は精神が全く安定せず、希死念慮も強かった。出来るだけ毎日、ゼンジは病院へ顔を出した。にこやかな日もあれば、顔を見るなり「帰れ!」と物を投げつけられる日もあった。
瀬能ゴウと飯山ハルキも見舞いには行っていたが、中々安定しない。転機が訪れたのは、入院から三ヶ月が経とうとした頃の話だった。オーナーが見舞いに訪れて、1時間以上は二人で話していただろうか。
リクは、急にやる気を見せるようになった。診察にも協力的な態度を示すようになり、院内での態度も真面目になった。あまりの変わりように驚かない者が居なかったほどだ。
「あれは頭がいい。時には、愛よりも金の方が有効な場合もある」
オーナーと直接話す機会のあったゼンジが深々と礼をすると、年季の入った笑い顔でそう言っただけだった。
退院してから、蓮波綾に関する一連の事情聴取を受けた。罪に問われる事はないにしても『自分が全ての発端だった。』と認めたリクは、一時期的に不安定さが目立った。
出会い系アプリでコソコソしてはゼンジと喧嘩になる。しかし、オーナーからの魔法の呪文『投資』を唱えられる度に、何とか持ち直してきた。
通信制高校を卒業し大学に入学してからのリクは早かった。元々、破滅的な方向であれだけの行動力をみせていただけの事はある。あっという間に司法試験に合格し、弁護士として去年から働き始めている。
オーナーの企業を担当する弁護士事務所に就職したその足で、ゼンジを迎えに行った。ダメ押しでネットワークを通じて、既にマンションは仮契約を済ませた状態。
あのゴウですら、感嘆せざるを得なかった。
なんつう行動力。
なるほど。オーナーが手放したがらないワケだわ。
「そんなに愛よりも金って大事ですかね……そら、俺の愛だけじゃどうにもならなかったですけど」
最初のコメントを投稿しよう!