最終話:明日を落としても

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「時にはってだけだよ……半井(なからい)君。てか、望月(もちづき)の行動力はよく知ってるじゃないの」  リク就職祝いの席。お迎えされた側のゼンジは、スーツケースを恨めしそうに見ながら愚痴っていた。酔っ払ってギャーギャー騒ぐリクとゴウの横で、肩を落とすゼンジを慰めるのはもっぱらハルキの役目だった。  ――カチャカチャ……ザーーー……  キッチンを心地よい沈黙が流れる。洗い物をするリクと、食器を拭いて片付けるゼンジ。濡れた手をゼンジのTシャツで拭いたリクは、苦い顔をしたゼンジをしっかり確認してから、シャワーを浴びに行ってしまった。  ゼンジは、その姿を見送ると歯を磨き始めた。  これが、今の俺たちの日常。  母親による娘殺しと教団事件。メディアがセンセーショナルに報道して、人々がそれに食いついた期間は、三ヶ月もなかった。人の死ですら、他人にとっては消費対象だ。  当事者達にとって、覚えているのは自分達だけで良かった。  スーツに着替えた二人は、玄関で軽くキスを交わすとマンションを後にした。  ◆ 「今日、いいの?行かなくて」 「――……うん。もう七年経つし。その度に有給もらうのも、もういい加減いいかなって」  佐伯(さえき)(はるか)は、夜勤明けでシパシパする目を擦りながら言った。冷えたビールのプルタブに手をかけると、一気に半分ほど飲み干した。 「あー!夜勤明けのビール、染みるー!」  (はるか)は、看護師になっていた。最初は姉のため、失った蓮波(はすなみ)(あや)のために精神科の看護師になりたいと、頑張っていた。しかし罪悪感を埋める事が主目的になってしまうと、あっという間に息切れを起こす。大学へ行けなくなってしまった(はるか)を癒やしてくれたのは、他の誰でもない、姉だった。  姉はとっくに退院していたが、部屋にこもりきりで直接会話をすることはなかった。  近くに姉を感じながらも、話すことが出来ない。いっその事、家を出ようかな……そう思いながらも、大学へすら行けずにSNSを眺めるだけの日々。趣味を通じて仲良くなったアカウントに愚痴っている時だけが、本来の自分でいられた。  その趣味だって……全然やる気になれない。 (編み物、全然やってない。)  十分程でリプがつく。
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