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(私も。眺めてるのは好きなんだけど。)
(前はよく、ユダワヤの……店に行ってたんですよね。)
(分かる。あそこ、毛糸豊富だよね。)
(知ってるんですか?そうなんです。見てるだけでワクワクしちゃって。)
(だよね!)
(私、姉がいるんです。とても毛糸に詳しい人で。一緒に行くのが好きだったんですよ。帰りは必ずオムライスを食べるんです。……屋ってお店の。)
(へえ、お姉さん。)
ん?どういう意味だろう。身内の話、地雷だったのかな。それっきり更新されないアカウントを眺めながら、遥は焦っていた。かれこれ一時間は、そうやって過ごしていただろうか。
「――……遥。編み物、やんない?」
ドアの向こうから、姉の声がする。
え?まさか
え?
ずっと愚痴ってたこのアカウント……お姉ちゃんだったの?!
驚きを隠しきれずに扉を開けると、姉がぎこちない笑顔で立っていた。
「……まさか、隣にいるとか思わないじゃん」
「――……そだね……すっごい驚いた」
二人は最初、編み物を通じてコミュニケーションをはかるのみだった。相変わらず、姉は食事の問題を抱えていて、同じ食卓を囲まない。それでも、SNSでの関係は続いた。姉もSNSなら話しやすいようだった。
姉は、蓮波綾の事件を知っていた。
大学を休学し、姉と編み物をするようになって一ヶ月が過ぎた頃だった。姉が突然、遥に語りかけた。
「……もういいんじゃない。自分を許しても」
「――……え?」
「……遥が思ってるほど、私、今の自分を嫌ってないよ。それに、綾ちゃんって子」
「――……」
「知らないで言うのもアレだけど。彼女も、自分を肯定したかったんじゃないの……そういうのって、他人からされてもダメな時があるんだよ」
遥は、自分の目から大粒の涙が溢れて、止まらなくなっている自覚すらなかった。ただ、ようやく苦しみしかない泥水から光が見えたような。そんな気持ちに包まれていた。
――……綾ちゃん。お姉ちゃんの名前、歩って言うの。
「えっ、ちょっと。そんなに泣かないで、遥」
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