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ベランダの窓にもたれかかったゴウが、懐かしそうに目を細める。
「覚えてる?リク君が、ナカライ君と喧嘩してウチに来た時の事」
「……いつのだよ。あの二人、喧嘩ばっかしてたじゃん……」
「最初の頃。まだ不安定だった時の話よ」
ゴウの腕が、ハルキの腰に絡まる。キスが出来そうな位に顔を近づけた所で、ゴウがムッとした声を出した。
「こんな風に顔近づけて、ハルキに迫ってたよねえ。あんのガキ……僕が帰ってこなかったら、どうしてたの、アレ」
ハルキはそのままゴウの唇を啄むと「断るに決まってるだろ」と言いつつキスの続きをしようとした。ゴウの手がビーンと伸びて、顔ごと身体を遠ざける。
「絶対に嘘だね。ハルキ、誘惑に弱いじゃん」
「……弱いよ。また、あの斜視がな。妙に色っぽいっていうか……イタッ!」
脇腹を思い切りつねられ、ハルキは身を捩った。こんな風に感情を顕わにするゴウは珍しい。嫉妬してたのか……八年も一緒に暮らしていると、恋人感覚はどうしても薄れてくる。現実主義でドライなゴウといると尚更だった。俺たちって、単なる相棒なのでは?と悩んだ事もある。
ただ、八年。一緒に過ごしていくうちに、リクを通してゴウもまた、似たような生い立ちなのだと窺い知ることが出来た。愛情表現が下手なのだ。一見、酸いも甘いも噛み分けて、世渡りが上手く出来ているように見えてしまっている分、余計にその不器用っぷりは目立った。
ゴウの愛情表現は、とにかく小さい。だから、付き合いが浅いと簡単に見逃してしまう。本人にとってはそれが最大限だし、精一杯なのだが。いかんせん、伝わらない。長いこと付き合わなければ、分からない事だらけ。それが瀬能ゴウという男だった。
だからこそ俺は、ずっと側にいたいんだよなあ……
「……ゴウちゃん」
「――……何?」
「二人で爺さんになるまで一緒にいない?」
嬉しさと困惑の入り混じった表情のゴウが、ハルキを見上げる。心なしか、耳が赤くなっているように見えた。
「お互いにもう三十超えてんだよ。てか、アラフォーだよ。アラフォー。あっという間に、ジジイになるでしょ」
「……ふん、好き」
照れ隠しする様に愛おしさを感じたハルキは、嫌がるゴウを抱き寄せると顔中にキスの雨を降らせた。
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