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「やだやだやだ!やめってって、ハルキ!」
「やめないよ、ゴウちゃんの事好きだもん。第二の人生に乾杯しようよー」
「えぇ……」
まんざらでもない表情に変わったゴウは、ハルキにキスを返すと「第二の人生か」と独りごちた。
またね。リク君、ナカライ君。
その日の夜、二人を乗せた飛行機がシンガポールへと旅立っていった。
◆
梅雨が明け、生まれたばかりの夏の日差し。陽炎が揺らめき、蝉の声が大きくなる中を歩く、半井ゼンジと望月リクの姿があった。リクの手には、花束が抱えられている。
霊園の入り口で、リクが線香を買っている間に、ゼンジが浄水を用意した。二人で、砂利道を奥へと進んでゆく。
今日は、蓮波綾の命日だ。
「久しぶりだな。蓮波」
リクが墓石に向かって声を掛ける。二人で手を合わせると、軽く掃除をしはじめた。と言っても、寺へは管理費が支払われているので墓石やその周りはキレイに保たれている。リクが就職するまでは、飯山ハルキが費用を負担していた。
「何も出来なかった自分に、これくらいはやらせてほしい」
ハルキのその言葉を、断れる者はいなかった。納骨の日、リクも外泊許可を貰って全員が揃った。
望月リク
半井ゼンジ
佐伯遥
飯山ハルキ
瀬能ゴウ
あの時は、こんな日が訪れるとは夢にも思わなかった。ゼンジと遥もまだカウンセリング中で、事務的な事は全てハルキとゴウへ任せる形になってしまった。骨壷に収められた綾を、まるで映画のワンシーンのようにしか見ることが出来なかった。
線香に火をつけたゼンジが、墓石に向かって語りかけた。
「結局、蓮波の好きな食い物、誰も知らないまんまだよ。天国で幸せにしてるか」
「本当の父親は好きだったと思うから。一緒に入れて、幸せなんじゃないかな」
リクがゼンジに肩を寄せながら、話を繋いだ。清められた墓石が、太陽の光を浴びてキラキラと反射していた。青みがかった紫を基調とした花を、花立てに添える。リクが花を見ながら、生前の綾に語りかけるような口調で、墓石へ話しかけた。
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