最終話:明日を落としても

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蓮波(はすなみ)は、青っぽい紫ってイメージなんだ。外れてないと思うんだけどな」  そうして二人で静かに、墓前へ手を合わせた。こうしてお墓参りに来ても、罪悪感で悩んだり、失った悲しみに暮れることもめっきり減ってしまった。ただ、年に数回。蓮波(はすなみ)と話をしに来る。  俺たちの毎日は、目まぐるしく動いていく。  心の奥に小さな痛みを大事にしまったままでも、人は笑えるもんなんだな。  俺たちは生きていく。  出来るだけ丁寧に、出来るだけ人を傷つけないように。  そうやって、現実を積み重ねてく。  思い出の中にいる彼女だけが、いつまで経っても歳を取らず、制服姿のままだった。  ありがとうな、蓮波(はすなみ)。 「――……ニャァ」  猫の泣き声が聞こえたような……立ち上がって二人で目を合わせた所で、今度は確実に子猫のか細い声が聞こえてきた。    よく見ると、霊園の隅っこにある雑草がモゾモゾと動いているように見えた。耳を澄ませると、やっぱり猫の泣き声がしている。    ゼンジとリクは再び目を合わせると、雑草をかき分けて声の在り処を探し始めた。 「ゼンジ、いた。うわー、お前ちっちゃいなー」  リクの声の方向を振り返ると、生まれて数週間かそこらの黒い子猫が、その生命いっぱいに鳴いていた。母猫に捨てられたのか、やせ細って目やにだらけだった。 「すぐ病院つれてかないと。猫風邪引いてる」 「詳しいね。歯科医って、そういう事も詳しいの?」 「――……歯医者は関係ないだろ。実家に猫がいたからだよ」  ゼンジは(かばん)からタオルを取り出すと、丁寧に猫をくるんだ。その様子をじっと見つめるリクの左目は、どこか懐かしいものを辿っているようだった。 「管理所でダンボールもらおう」 「――……(レン)」 「え?」 「名前だよ、この猫の。連れて帰るだろ。だってウチ、ペット可……」  そう言いかけたリクが固まった。深々と頭を下げる女性の姿を見つめている。白髪が目立つようになった女性の手には桃が持たれていた。抱えている花束は、青っぽい紫を基調としている。    リクは軽く会釈をすると、女性を(いぶか)しげに見るゼンジを催促して歩き出した。  そっか、蓮波(はすなみ)って桃が好きだったのか。
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