68人が本棚に入れています
本棚に追加
確かに孤立しているよなあと思う。実際、マトモに誰かといる所を見たことがない。
ただ仮にも進学校において、陰口以上の事をされているとも思えなかった。
最初の頃は気にかけていた同級生も、何人か居たようだ。しかし彼女があまりにも心ここにあらずなため、最終的に腫れ物扱いになってしまった、と言うのが本当の所だった。
「かまってちゃんアピのメンヘラ」
直接誰かが言った訳ではないが、それが学年中の共通認識になっていた。
落窪んだ目、不健康に痩せた体……包帯を今日はしてないのか。それでも腕の赤くひきつれた傷跡は、少しでも注視すればすぐにでもいくつか見つけることが出来るだろう。
なんとなく見ていられなくなったゼンジは、鞄からスポーツタオルを取り出すと綾に向かって投げた。
飛んできたタオルにビクッとして後ずさった彼女の足元が、完全に水溜まりに浸かる。
「それやるよ。返さないでいいから」
「――……」
無反応かよ。ま、反応があったら逆に怖いか。
ゼンジには自分が話し下手だという自覚があった。だからと言って、似たように話をしない彼女へ共感を覚えたいとも思わなかった。ザーザーと降りしきる雨の中を、再び歩き出してゆく。
校門に到着したゼンジは、傘を持ち上げて校舎を見上げた。空は朝からどんよりとした暗さで、どの教室にも照明がついている。
2階の一番端にある自分のクラスを見上げると、望月というクラスメイトが頬杖をつきながら、こちらを見ていた。
綾はタオルを握りしめながら、ゼンジの後を無言のままくっついて歩いてきていた。
そういう所が腫れ物扱いされる原因になってんじゃないのか。嫌悪感まではないけれど、関わりたいとも思えない。
ゼンジは綾に気づかないフリをしながら、そのまま校舎に向かって歩きだそうとした。
頬杖をついた望月はまんじりともせず、こちら側を眺めている。
望月リク
彼はもうこれ以上、自分が成長しない事を知っているかのような華奢な体つきと、女性のように美しい整った顔立ちをした少年だった。
最初のコメントを投稿しよう!