第一話:雨の日の横顔

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 「望月(もちづき)だったらありだよなあ!」と本気なんだか冗談なんだか、理解に苦しむ発言をする男子生徒達がいるほどだ。そんなタチの悪い冗談を、彼はむしろ積極的に楽しんでいた。少なくとも傍目(はため)には。  この学校には珍しい垢抜(あかぬ)けた雰囲気は、男女問わず人気があった。如才(じょさい)なさは教師達から好かれた。  しかしゼンジは正直な所、嫌悪感を抱いていた。  単純にあの如才なさが受け付けないんだろうなとは思う。もっと言えば、どこか他人を小馬鹿にして喜んでいる様が、態度の端々から透けて見えて不快になるのだ。  望月(もちづき)と目が合う。なんだ、まだ見てたのか。  上から目線で偉そうに。 「――あの……」  突然、後ろから声をかけられゼンジはギョッとして振り返った。タオルを濡らさぬよう、大事に抱えた(あや)が真後ろに立っていた。 「……やっぱりコレ、お返しします」 「え、なんでだよ。やるっつったんだから良いよ」 「――……」  ビックリするくらい近付いてきたかと思えば、またダンマリ。一体、何なんだ。会話が出来ないなら、話しかけないで欲しい。 「――あの……私、こういうのどうしたら良いか分からなくて……」  蚊の消え入るような声を聞きながら、ゼンジは面倒くさくなっていた。要らないなら捨てればいいじゃないか。やっぱりこんなワケの分からないやつと、関わるんじゃなかった。  ただ、それきり知らん顔と言うのも気分は良くない。ゼンジは舌打ちしたくなる気分を抑えながら、努めて優しい口調で彼女を諭した。 「いらねーなら、テキトーに捨てて。それ、どっちにしろ捨てようと思ってたから」  刺さるような視線を感じて傘越しに教室を見ると、相変わらず頬杖(ほおづえ)をついたままの望月(もちづき)が俺たち二人を見ていた。あからさまに表情が(こわ)ばっている。  珍しいな、あんな奴でも怒る事があんのか。  でも。一体、誰に? 「ほらー、早く入れー」  玄関から生活担当の声が聞こえる。    どうせきっと直ぐに忘れてしまう事だ。そう思いながら、ゼンジは校舎の中へと入って行った。
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