68人が本棚に入れています
本棚に追加
「望月だったらありだよなあ!」と本気なんだか冗談なんだか、理解に苦しむ発言をする男子生徒達がいるほどだ。そんなタチの悪い冗談を、彼はむしろ積極的に楽しんでいた。少なくとも傍目には。
この学校には珍しい垢抜けた雰囲気は、男女問わず人気があった。如才なさは教師達から好かれた。
しかしゼンジは正直な所、嫌悪感を抱いていた。
単純にあの如才なさが受け付けないんだろうなとは思う。もっと言えば、どこか他人を小馬鹿にして喜んでいる様が、態度の端々から透けて見えて不快になるのだ。
望月と目が合う。なんだ、まだ見てたのか。
上から目線で偉そうに。
「――あの……」
突然、後ろから声をかけられゼンジはギョッとして振り返った。タオルを濡らさぬよう、大事に抱えた綾が真後ろに立っていた。
「……やっぱりコレ、お返しします」
「え、なんでだよ。やるっつったんだから良いよ」
「――……」
ビックリするくらい近付いてきたかと思えば、またダンマリ。一体、何なんだ。会話が出来ないなら、話しかけないで欲しい。
「――あの……私、こういうのどうしたら良いか分からなくて……」
蚊の消え入るような声を聞きながら、ゼンジは面倒くさくなっていた。要らないなら捨てればいいじゃないか。やっぱりこんなワケの分からないやつと、関わるんじゃなかった。
ただ、それきり知らん顔と言うのも気分は良くない。ゼンジは舌打ちしたくなる気分を抑えながら、努めて優しい口調で彼女を諭した。
「いらねーなら、テキトーに捨てて。それ、どっちにしろ捨てようと思ってたから」
刺さるような視線を感じて傘越しに教室を見ると、相変わらず頬杖をついたままの望月が俺たち二人を見ていた。あからさまに表情が強ばっている。
珍しいな、あんな奴でも怒る事があんのか。
でも。一体、誰に?
「ほらー、早く入れー」
玄関から生活担当の声が聞こえる。
どうせきっと直ぐに忘れてしまう事だ。そう思いながら、ゼンジは校舎の中へと入って行った。
最初のコメントを投稿しよう!