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目が釘づけである。
私の周りでは、終始カメラが取り囲み、歓声がやむことはない。寝ていようと、起きていようと、じっとこの顔を覗き込もうと、とにかく必死なのである。何をそんなに必死になることがあろうか。
たまの休みを返上してまで、はるばるやってきた口惜しさが、瞬きさえ忘れさせるのだろうか。
夜になると歓声は止む。しかし、昼間取り囲む人間は大抵ギャーギャーと騒ぎ立てるのだった。それは、針が振り切れているのではないかと思うほどだ。
それでいて、私はあくまで自然体を崩さない。演じるものは、夢を与えつづけなければならないものだ。その宿命を、いま私は、甘んじて受けようではないか!この堂々たる姿を見たまえ、諸君!
「あら〜、レッサーパンダのプラトンちゃん、略してプゥちゃんが元気よく立って、こちらに挨拶してくれてますよー。みんなでご挨拶しましょうね。はーい、みんなでーー」
《プゥちゃーん》
(子供らよ、健やかに育て……!)
そう声にならぬ励ましを送るレッサーパンダは、名前以外、全て演技だ。
当人ならぬ当レッサーパンダは、親指を立てた凛々しい翁のような気持ちでいたが、それは愛らしい手のひらが、より愛らしさを強調したにすぎなかった。
(了)
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