黒いドレスの能力者狩り

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 「私は、私が幸せであればそれで構わない。だって私は、そういう人間だ」  黒鉄と赤い蛍光灯に照らされた要塞都市(タイラント・ランド)。  そこに暮らす全ての住人は能力者か、それとも軍人である。  血と鉄の都市、とも呼ばれたその要塞都市の真夜中の空に、今日もまた()()のシルエットが映し出される。  ーー黒いドレスに灰茶色の髪、両手には包丁程度の長さの漆黒に輝く二本の刃を携えている。  また現れた。  彼女が引き起こす災いは、人々には無害であるが、ただし、能力者にとっては恐怖でしかない。  「現れたぞ。能力者狩りだ」  拳銃を右手に、左手で持つ懐中電灯で彼女を照らしながら、見回り中の軍人が叫ぶ。  彼女が立つ三階建ての家屋を囲み、集まった二十人ほどの軍人が屋上に銃口を向ける。  「無能力者がぞろぞろと。この程度の人数で私を止めるつもりか」  低く、威圧を込めた囁くような彼女の声に、軍人らは手足を震わせる。  恐怖からか、その震えが止まることはない。  「全員、射撃用意」  その声と同時、彼女は飛んだ。  「撃てえぇえぇえぇえぇえぇええ」  銃声が無数に響き渡るとともに、無数の銃弾に四方を囲まれる。  だが彼女はいたって冷静で、むしろその頬に笑みを浮かべるほどの余裕を持っていた。  彼女は太ももにつけた十二の試験管の一つを取り出し、蓋を開けて中に入った赤い液体を飲み干した。  血流が加速し、鼓動は増していく。  茶色い目は赤色に染まり、雰囲気も一風恐怖を増した。  「管理異能(アビリティストック)No.7 拡散衝撃波(ショットガン・インパクト)」  彼女を中心に波紋のように衝撃波が駆け抜け、弾丸は細かく亀裂が走り、周囲に飛散する。  「これが……異能(アビリティ)!?」  軍人たちは銃弾を撃ち続けるが、全てが当たる前に砕けてしまう。  彼女は屋根の上を駆け抜け、要塞都市を疾走する。  軍人はそれでも撃ち続ける。  「そこまでにしておきな」  彼らの背後から、白衣を着、ボサボサの髪をかいている男がやる気もなく歩いてきた。  「何者だ」  「何者って、この街にいるなら二択でしょ。軍人か、それとも能力者か」  「だからどうした。邪魔をするのならお前もーー」  男に好戦的な態度を取った軍人の両腕は宙を舞った。  誰も、一歩も動いていないというのに。目の前にいた男すらも。  「激痛こそが生への執着を呼び起こす。お前は生きたいか、それとも死にたいか?」  落ちた拳銃を拾い、男は軍人の額に銃口を向ける。  周囲の軍人は男に銃口を向けるが、誰一人として引き金は引かない、いや、引けない。  「僕の異能は"生と死の境界線(デッド・オア・アライブ)"だ」  彼の発言に軍人らは騒ぎ出す。  「そうか、まさかお前が……」  額に銃口を向けられる軍人は、冷や汗をかき、諦めからかため息を吐いた。  「妻よ、すまない。私はここで……死ぬのだな」  後悔として吐き出された言葉。  それに対し、何の慈悲もなく引かれた引き金。一発の銃弾はある軍人の額を貫き、血を周囲に飛散させた。  「天草さん……」  撃たれた軍人の胸元からは、妻と娘と思われる人が写っている、ペンダントに入った写真だった。  「生か死か(デッド・オア・アライブ)。もちろん、(デッド)だよな」  錯乱する血飛沫。  血にまみれた街道を、彼は血まみれの白衣で通りすぎる。  「さて、能力者狩りには(アライブ)を」  やがて夜が開ける。  今回の事件による死者は白衣の男によって殺された軍人二十五名、能力者一名。  負傷者は軍人四十二名ということになった。
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