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 画廊の扉を開けると、細い通路の奥に直人がいた。  あの絵の前に突っ立っていた。 「直人」  受付のスタッフに会釈して、俺は早足で歩いていった。  直人が首を後ろにまわした。 「受賞、おめでとう」  隣に立った俺に、直人は目を見開いた。 「言い忘れてたから」 「わざわざ戻ってきたの?」  俺は頭をかいて、ああ、と頷いた。 「こんな寒いなか……別にメールかなんかでいいのに」 「いいんだよ。俺が直接言いたかったんだ」 「そう……ありがとう」  俺は直人の隣に立った。  直人もこの絵を見てるのが、気配でわかった。 「祝福」  唐突に直人が言った。 「は?」 「……題名は、祝福」  直人は絵から視線をうつし、俺を見つめた。 「悪い、よくわかんね」  俺が頭をかいたら、ふっと口元を緩め、懐かしそうな顔をした。 「東、楽しそうに絵、描いてたよね」 「そうだっけ」 「そうだよ」  直人の眼光がするどくなった。いつかの野生動物のように。 「僕はねえ……楽しく描いたこと、一度もない。一度だってないよ。息苦しくてたまらなかった……あの人の申し訳なさそうな視線に気づく度に、うんざりした。自分の母親にそんなふうに見られるの、想像できる? 優しかったり温かかったり、普通はそんななんだろう? 僕は物心ついたときから、ずっとあの目だ。温かな景色がほしかった。テレビの団らんみたいなのが。そんな絵がほしかった。だから描いた。でも描けなかった。美術部に入ったら描けるかなって思った。それでも描けなくて僕は下手くそなんだって思った。でもわかったんだ……僕は絵がきらいだ。楽しくない。全然、好きじゃない。東は楽しく描いてるんだ。好きで描いてるんだ。あの日、そう思ったら口惜しくてたまらなかった。デッサンが狂ってても、東の絵はのびのびして画用紙いっぱいに広がって、あったかい。僕もそんな絵がほしかった。でも絵が好きじゃない僕には無理だ。そう思ったのに、東の絵と絵を描いてる姿は温かで、見てたくて、僕は美術部に通い続けた」  直人は挑むような視線をむけた。  俺は口を開いたけど、適当な言葉が見つからなかった。
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