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固いはずの剣身が、ぐねぐねとうねっているように見えた。それなのに一撃一撃がずしりと重い。その剣戟を受けるだけで精一杯で、あっという間に壁際に追い詰められる。
ユリウスが大きく踏み込む。思わず身を竦め、両目をぎゅっと閉じた。
壁に食い込んだ剣身が、耳のすぐ脇で鈍い音を響かせる。
「戦いの途中で目を瞑るな! 死んだらどうするんだよ!」
目を開けると、ユリウスの真剣な顔がすぐそばにあった。
(……こんなの、僕がいくら本気出したって、ぜんぜん敵わないじゃないか)
昂っていた身体の熱がすっと冷めていく。
(――戦いなんて嫌いだ。怖いのも痛いのも大っ嫌い。こんなことになるのなら本当に女に生まれたらよかったんだ。そうすれば王位や戦いにも一生関わらずに済んだのに)
そう思った瞬間、涙腺がじわりと熱を持った。ユリウスがはっとした顔をする。
目の前の胸を押しやり、稽古場から逃げ出した。
ルーヴォア師が自分を呼ぶ声が背後から聞こえた。振り返りもせず、すべてから逃げ出すように脇目も振らず走る。
無意識に、森の奥を目指していた。いつも避難所にしている古い聖堂を。
「――――ルイ!」
いつの間にか、ユリウスがすぐ背後に迫っていた。
「何でついてくるんだよ! あっちに行けよ、バカ!」
「ダメだ! ひとりだと危ないだろ!」
「子ども扱いするなよ! ここは僕が生まれ育った家なんだから、どこにいたって危ないわけがないだろ!」
「わかった! じゃあ俺がここで迷子にならないように一緒にいろ!」
「はぁっ!? 訳わかんないこと言うなよ! もう、本当について来るなってばぁ!」
言い合いをしているあいだに聖堂に到着してしまった。朽ちかけた石柱の列を見渡し、ユリウスが呟く。
「へえ、こんなきれいな場所があったんだな。古代の宗教遺跡か」
ユリウスの言葉に驚き、振り返る。
「……詳しいの?」
「一応これでも修道院育ちだからな。信仰が違うということはわかる」
汗と涙を拭いながら、地面に横倒しになった石柱の上に腰を下ろした。するとユリウスも少し距離を置き、その隣に座った。
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